Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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cover

2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

ポスター
消化器:胆膵

(S551)

発達した側副血行路を伴う膵癌の3例

Pancreatic cancer with marked collateral circulation: report of three cases

渡部 多佳子1, 石田 秀明1, 小松田 智也1, 古川 佳代子1, 大野 秀雄1, 八木澤 仁1, 石井 透1, 宮内 孝治2, 斉藤 謙3, 長沼 裕子4

Takako WATANABE1, Hideaki ISHIDA1, Tomoya KOMATSUDA1, Kayoko FURUKAWA1, Hideo OHNO1, Hitoshi YAGISAWA1, Toru ISHII1, Takaharu MIYAUCHI2, Ken SAITOU3, Hiroko NAGANUMA4

1秋田赤十字病院超音波センター, 2秋田赤十字病院放射線科, 3秋田赤十字病院病理部, 4市立横手病院内科

1Center of Diagnostic Ultrasound, Akita Red Cross Hospital, 2Department of Radiology, Akita Red Cross Hospital, 3Department of Pathology, Akita Red Cross Hospital, 4Department of Internal Medicine, Yokote Municipal Hospital

キーワード :

【はじめに】
膵癌は容易に周囲脈管系に浸潤する傾向があり膵癌例の治療成績を不良なものにしている.しかし,血管浸潤に伴う発達した側副血行路を認めることは比較的稀である.今回そのような3例を経験したので腹部超音波(US)画像を中心に報告する.
【症例1】
50歳代女性,便秘を主訴に来院.USでは膵の形状に異常を認めず膵管拡張も認めなかった.腹腔動脈,上腸間膜動脈(SMA),上腸間膜静脈,門脈本幹に異常を認めず,脾静脈のみがまったく描出されず発達した胃静脈瘤が同時に認められた.上部内視鏡検査(GIF)では発達した胃静脈瘤は認めるが,食道静脈瘤は認めなかった.大腸内視鏡検査では壁外からの圧迫が著明で伸展不良であった.胃静脈瘤加療目的に他院に転科,胃静脈瘤治療行うも次第に全身状態悪化のため1年後死亡,剖検の結果,膵全体が癌に置換されていた.
【症例2】
50歳代女性,2か月前からの食欲不振とるい痩を主訴に受診.USでは膵に腫瘍は認めなかったが,SMA根部を取りまくような低エコー腫瘤を認めた.脾静脈,門脈が描出されず,同部位にCTPV(cavernous transformation)が発達していた.GIFでは異常を認めなかったが,CTでは胃壁に静脈瘤の所見を認めた.CT-PETでは膵に集積は認めなかったが,SMA根部に集積を認めた.CA19-9は53.6 U/mlと軽度高値を示したが,他の血液生化学検査では異常を認めず.膵癌の可能性を疑うも,確診に至らず,症状も軽快しなかったため,診断的手術を行った.SMA根部の腫瘤生検が腺癌と迅速診断され,膵体尾部切除,脾切除を施行.病理学的検査で膵管内乳頭粘液性腺癌と診断された.本人の希望があり陽子線治療を行ったが,次第に病状悪化し,1年2か月後に死亡.
【症例3】
80歳代女性,高血糖の精査治療のため他院より紹介来院.USでは膵頭部に40×30mm大の低エコー腫瘤を認め,その尾側に10mm大の拡張膵管が認められた.腫瘤は上腸間膜静脈から門脈本幹,腹腔動脈から肝動脈を巻き込み,十二指腸まで浸潤していた.肝門部から肝内には門脈腫瘍栓が認められ,その部にCTPVと動脈が発達し,それらが十二指腸方向へも進展していた.多発性肝転移,リンパ節転移も認めた.GIFでは,食道静脈瘤が認められた.膵頭部癌末期で手術不可能,化学療法も副作用を考慮すると対象外であり,緩和ケアが主体となり外来で経過観察となった.
【まとめと考察】
膵癌が低率ではあるが膵外へびまん性に浸潤することは以前から知られていた.今回提示した3例はそのような症例に当たると思われる.臨床上,これらの例で見られた門脈系の側副血行路の存在は注目に値する.CTPVは門脈(主に本幹)の閉塞により二次的にその周囲に発達した求肝性の微細血管の集合体で,カラードプラで容易に拾い上げ可能である.膵頭部を主体に周囲に伸展し門脈浸潤をきたした場合は容易にCTPVを発達させるものと思われる.一方,膵尾部を主体に門脈浸潤をきたした場合は容易に胃静脈瘤を発達させるものと思われる.このように,門脈系の発達した側副血行路を認めた場合膵癌の可能性も念頭に入れるべきと思われる.なお,症例1に見られた頑固な便秘は腹腔内を伸展した腫瘍が腸管の壁外浸潤をきたしたためと考えられ,当初唯一の症状であったことを考えると示唆に富む症例であった.