Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

ポスター
基礎:基礎

(S516)

周波数依存減衰を補正したパルス圧縮広帯域画像化の検討

Pulse Compression Wideband Imaging with Compensation of Frequency Dependent Attenuation

河本 江平1, 田川 憲男1, 大久保 寛1, 秋山 いわき2

Kouhei KOUMOTO1, Norio TAGAWA1, Kan OKUBO1, Iwaki AKIYAMA2

1首都大学東京システムデザイン学部, 2同志社大学生命医科学部医情報学科

1Faculty of System Design, Tokyo Metropolitan University, 2Department of Biomedical Information, Faculty of Life and Medical Sciences, Doshisha University

キーワード :

【はじめに】
超音波画像の広帯域化を実現するために,積層型探触子の開発が進められている[1].しかし,広帯域化により高周波成分を多く利用すると,周波数依存減衰の影響を受けやすくなる[2],[3].特に生体深部の画像化では絶対的な減衰が大きくなるため,パルス圧縮法による高S/N化が有効であるものの,減衰の周波数依存性による波形歪により圧縮精度が著しく低下し,圧縮画像が不鮮明になってしまう.したがって,周波数依存減衰の効果的な補正が必要である.しかし,エコー信号受信後に単純に逆フィルタによって減衰効果を補正した場合,雑音成分も増幅される.そこで本研究では,パルス圧縮画像化法を念頭におき,周波数依存減衰の影響を相殺する送信波補正を行うことで,周波数依存減衰の影響を低減させる方法を検討する.
【方法】
最初に振動子の特性補正を振幅と位相の双方に対して行う.チャープ信号電圧を振動子に印加し,減衰の無い媒質内を伝搬して戻るエコー信号を参照用として採取する.印加信号とエコー信号にそれぞれFFT処理を施し,両者の振幅の比を印加信号に掛けることで振幅を補正する.さらに,両者の位相差を計算して印加信号の位相に足し合わせることで,位相を補正する.この補正信号を,以降の処理に対する基本印加信号として用いる.続いて,画像化対象の周波数依存減衰を打ち消す送信補正について説明する.上述の基本印加信号電圧を振動子に加え,減衰のある媒質内を伝搬してROIから戻ってきたエコー信号を取得する.取得したエコー信号は周波数依存減衰の影響を受け,高周波成分ほど大きく減衰している.そこでこの減衰の結果として理想的なチャープ波形が得られるよう,振動子に印加するチャープ信号電圧に補正を加えることで,送信補正を実現する.まず印加信号とエコー信号にそれぞれFFT処理を施し,両者の振幅の比を指数関数で近似する.ここでの近似は,計測雑音の影響を回避するためである.近似した振幅の比を,FFT処理を施した印加信号の実部と虚部に掛け合わせ,逆FFT処理を施すことで周波数依存減衰の影響を相殺する補正印加信号が得られ,この信号を振動子に入力して,補正された送信信号に対するエコー信号を得ることになる.上記手続きは,理想的には距離毎に行う必要があるが,実際にはある幅をもったROIごとに行われる.したがって,減衰特性が単一の指数関数で完全に記述できる保証はなく,一度の補正で周波数依存減衰を相殺しきれていない場合は,送信補正を更に繰り返して行う.
【結果】
本研究では,有限要素法超音波伝搬解析シミュレータPZFlexによる数値実験として,上記の方法の評価を行った.超音波送信は64素子からなる振動子アレイによるリニアスキャンとした.減衰率の異なる複数の領域を設定し,その中に反射の比較的大きいターゲットを配置して,画像化を行った.送信チャープ信号の中心周波数は4 MHz,使用帯域は 2 MHz,パルス長は10usとした.提案手法の有無により画像を評価したところ,少ない回数の補正手続きによって,十分な減衰補正効果があることが確認できた.
【考察】
今回の数値実験結果より,提案する送信信号補正によって周波数依存減衰の影響を軽減できることが確認できた.今後,生体に近いシミュレーションモデルでの画像化,さらには実験による画像評価を進めていく予定である.
【文献】
[1]I. Akiyama, N. Yoshizumi, and K. Nakamura: in Proc. IEEE Ultrasonics Symp. (2009) 2712
[2]N. Saitoh, H. Hasegawa, and H. Kanai: Jpn. J. Appl. Phys. 48 (2009) 07GJ08
[3]T. Shiina, M. Yoshida, M. Yamakawa, and N. Nitta: Jpn. J. Appl. Phys. 46 (2007) 4851