笠原 英司¹, 村下 賢¹, 中田 雅彦²

Eiji KASAHARA¹, Masaru MURASHITA¹, Masahiko NAKATA²

¹日立アロカメディカル株式会社第一メディカルシステム技術本部, ²徳山中央病院周産期母子医療センター

¹Medical Systems Engineering Division 1, Hitachi Aloka Medical,Ltd., ²Perinatal Medical Center, Tokuyama Central Hospital

キーワード :

【目的】
現在,胎児の心臓における不整脈診断は主にM-modeを用いた心房・心室の壁運動や上大静脈・上行大動脈でのドプラ信号から時相変化を計測する方法で行なわれている．これらの計測値は診断に有効であるが,前者では房壁と室壁の適切な位置設定,後者では超音波ビームの角度依存性等により測定結果に影響を受ける．一方,近年提案されたスペックルトラッキング法は超音波のビーム角度による制限を受けることなく断層像上で胎児心の壁運動などが観察可能とされ心臓壁の動きを検出することが可能である．しかしながら,現在の超音波診断装置に搭載されているスペックルトラッキング機能は成人の心臓を対象としており,その機能をそのまま胎児心に適応した場合はトラッキングエラーが発生することが多い．これは胎児の心臓が成人心臓と比較して小さく,かつ動きが早い事などが原因である．今回,胎児心のような組織部においても精度良くトラッキングするアルゴリズムを開発したので報告する．
【方法】
トラッキング処理は,設定された探索範囲内で基準となる画像（以下テンプレート）と最も類似度の高い位置を検出し,テンプレートの移動先を選定する．提案するアルゴリズムは超音波断層像を用いた従来のトラッキング手法で用いられているテンプレートを更に細分化し,類似度が著しく低い領域を類似度計算から除外する．この除外処理により断層像に対して手前または奥行き方向の組織が断層像上に現れた場合の影響等を軽減した．また,一般的なトラッキング処理で用いられる相互相関処理は累積誤差が生じる場合が有るため,この部分を自己相関処理に変更して周期的な動作をする組織のトラッキングを改善した．
【結果】
従来のトラッキング技術では処理が行うことが困難であった胎児心の超音波断層像に本提案アルゴリズムを適用した結果,胎児心の様に構造が小さく,かつ動きの早い組織においても良好なトラッキング結果が得られた．FS解析における距離変化をFig.1に示す．
【まとめ】
今回,従来のトラッキング法を改善し信頼度の高いトラッキング法を提案した．本手法は断層像を用いて処理するため,従来のM-modeやドプラ法と比較して,簡便にかつ再現性の高い解析結果が得られることが期待される．今後,本提案アルゴリズムを用いて胎児心の不整脈診断等の臨床応用が可能かを評価していく予定である．