Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

一般口演
産婦人科:胎児異常

(S468)

胎児静脈管欠損症と食道閉鎖を合併した一例

Case Report: Prenatal diagnosis of absence of the ductus venosus with esophageal atresia.

山崎 健太郎, 荒木 裕之, 北島 百合子, 吉村 秀一郎, 増﨑 英明

Kentaro YAMASAKI, Hiroyuki ARAKI, Yuriko KITAJIMA, Syuichiro YOSHIMURA, Hideaki MASUZAKI

長崎大学産科婦人科

Obstetrics and Gynecology, Nagasaki University

キーワード :

【はじめに】
静脈管欠損症は稀な疾患であり,臍静脈の還流異常や臍静脈瘤としても報告されている.しかし,その病態の詳細については不明である.今回私どもは,胎児静脈管欠損症に食道閉鎖を合併した症例を経験したので報告する.
【症例報告】
症例は28歳,1経妊1経産の女性で,近医の産婦人科で妊娠を診断された後,同院で妊婦検診を受けていた.妊娠28週6日に胎児の推定体重が980gと胎児発育不全を認め,超音波検査で胎児の横隔膜ヘルニアを疑われ,妊娠29週5日に当科へ紹介された.当科での胎児超音波検査において,胎児の臍静脈から静脈管にあたる部位の著明な拡張と子宮頸管長の短縮および規則的な子宮収縮を認め,妊娠30週5日に入院した.入院後の頸管所見は頸管長が10mmで子宮収縮に対して,塩酸リトドリンの点滴静注を行い,切迫早産の治療を行った.入院後も臍静脈から静脈管にあたる部位の拡張は著明であり,拡張した部位では超音波カラードプラ検査において,血液の乱流を認め血流波形も一定のものが得られなかった.その他にも右胸心,ASD or ECDの存在が超音波検査で疑われ,妊娠31週に施行した胎児MRIでは,胎児の頸部に嚢胞性病変の存在が疑われた.上記検査より,胎児の静脈管欠損,右胸心,胎児心奇形,食道閉鎖の疑い,胎児発育不全,切迫早産と診断された.切迫早産の原因は感染などの検査を行ったが,原因不明で,塩酸リトドリンのみでコントロールできなかったため硫酸マグネシウムの併用を妊娠31週より行った.妊娠経過中の心拡大はCTARが35%前後であり,胎児水腫もなかったが,妊娠33週頃より羊水深度で96mmと羊水過多症を認めた.子宮収縮は次第にコントロールされるようになり,羊水過多症の増悪もなく羊水除去は必要なかったが,妊娠36週になり,胎児の左心系の拡大を認めたため,分娩誘発を行った.分娩誘発は子宮頸管拡張後にオキシトシンの点滴静注を行ったが,子宮口開大4cmの時点から遅発一過性徐脈の出現を認め,胎児機能不全のため緊急帝王切開を行った.出生児は在胎36週5日で,出生体重は1,915gの男児,アプガースコアは1分後6点(呼吸-1,心拍-1,皮膚色-2),5分後7点(呼吸-1,皮膚色-2)であり,手術室で気管内挿管され,NICUへ入院した.小児科で新生児の食道閉鎖(C型),ASD,三心房心,右胸心および静脈管欠損と診断され,現在,小児外科で食道閉鎖に対する手術および治療を行っているが,気道分泌物が多く,現在も気管内挿管で人工換気を行っている.母体の術後経過は順調で術後7日目に退院した.
【考察】
臍静脈から静脈管の拡張を認める症例は少ないが,いくつかの報告がある.その中には,静脈管の欠損としているものもあれば,臍静脈もしくは静脈管の血管瘤として報告されているものもある.その詳しい病態は不明であり,今回の症例のように合併奇形が存在することは少なくない.今回の症例はGバンド法による染色体異常はなく,今まで報告された奇形症候群とも所見が似ているものはなかった.臍静脈血管系拡張症の予後は他の合併奇形がなく,心不全が不可逆的になる前に出生すれば比較的良いようであるが,今後も臍静脈血管系の異常例について,個々の症例の詳しい検証が必要と考えられる.