Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

一般口演
消化器:肝・症例2

(S407)

肝悪性リンパ腫との鑑別が困難だった肝細胞癌の1例

A Case of Hepatocellular Carcinoma Difficult to Distinguish from Hepatic Malignant Lymphoma

若杉 聡1, 小宮 雅明2, 神作 慎也2, 本間 善之2, 長谷川 貴士2, 平田 信人3, 加納 宣康4, 星 和栄5, 光嶋 徹6, 石田 秀明7

Satoshi WAKASUGI1, Masaaki KOMIYA2, Shinya KANSAKU2, Yosiyuki HONMA2, Takashi HASEGAWA2, Nobuto HIRATA3, Nobuyasu KANOU4, Kazuei HOSHI5, Tooru MITSUSHIMA6, Hideaki ISHIDA7

1亀田総合病院消化器診断科, 2亀田総合病院超音波検査室, 3亀田総合病院消化器内科, 4亀田総合病院外科, 5亀田総合病院病理科, 6亀田幕張クリニック内科, 7秋田赤十字病院超音波センター

1Division of Digestive Diagnosis Department of Internal Medicine, Kameda Medical Center Hosipital, 2Ultrasonography Room, Kameda Medical Center Hosipital, 3Division of Gastroenterology Department of Internal Medicine, Kameda Medical Center Hosipital, 4Division of General Surgery Department of Surgery, Kameda Medical Center Hosipital, 5Department of Anatomical Pathology, Kameda Medical Center Hosipital, 6Division of Gastroentrology, Kameda Makuhari Clinic, 7Center of Diagnostic Ultrasound, Akita Red Cross Hospital

キーワード :

【はじめに】
進行肝細胞癌のBmode超音波検査の特徴は,内部モザイクパターン,薄くて均一な境界部低エコー帯が特徴である.しかし,必ずしも典型的な所見を呈さない肝細胞癌症例も存在する.今回,我々は内部均一できわめてエコーレベルが低く,後方エコーの増強を伴うことから,悪性リンパ腫を疑った肝細胞癌の1例を経験した.
【症例】
60歳,男性
【既往歴】
特記すべきことなし.
【家族歴】
特記すべきことなし.
【生活歴】
喫煙歴 30本/日×40年 飲酒歴1日4-5合/日×40年
【現病歴】
毎年,当院幕張クリニックの人間ドックの超音波検査を受けていた.2011年の人間ドックの超音波検査で,肝腫瘤を指摘され,精査目的に当院受診になった.
【血液検査所見】
血小板数は16万/μlと軽度低下していた.AST 203IU/L,ALT 202IU/L,γ-GTP 314IU/Lと肝機能障害を認めた.HCV抗体陽性だった.腫瘍マーカー,AFP,PIVKA-2は正常値だった.
【超音波検査所見】
肝S5-8に21mm×11mmの類円形結節像を認めた.境界明瞭平滑で,内部は均一で,きわめてエコーレベルが低かった.後方エコーの増強も軽度認めた.カラードプラ検査では,内部に拍動性の血流シグナルを認めた.この血流シグナルはA5から血流を受けているように思われた.
【造影超音波検査所見】
結節は血管早期相で全体が濃染したが,造影効果はソナゾイド静注後30秒で減弱した.血管後期相では,結節は周囲肝実質に比べて造影不良になり,後血管相では造影欠損像となった.
【ダイナミックCT検査所見】
肝S5-8に径19mmの類円形結節を認めた.非造影像では,周囲肝が脂肪肝により低濃度となっており,結節は周囲肝に比較して軽度高濃度像を呈していた.動脈相では結節の上部から辺縁部を主体に造影効果を認め,門脈相,平衡相では周囲肝より造影不良であった.
【MRI検査所見】
結節はT1強調像で低信号,T2強調像で高信号,拡散強調像で高信号だった.EOB造影では,動脈相で結節の上部から辺縁部を主体に造影され,門脈相,平衡相では造影不良であった.肝細胞相では造影欠損像であった.
【肝生検所見】
非腫瘍組織は30-40%が脂肪肝の所見を呈する,慢性肝炎の所見だった.結節部の組織は比較的厚い索状配列をしめす腫瘍細胞がときに偽腺管構造を呈し,中分化型肝細胞癌と診断された.
【考察】
一般的には肝細胞癌は15〜20mm未満では均一低エコー結節ないし高エコー結節を呈し,増大し15mm〜20mm以上になると,境界部低エコー,内部モザイクパターンを呈するようになる.本例は大きさ21mm×11mmであり,均一低エコーから典型的な進行関肝細胞癌に変化する過渡期の状態で診断されたものと考える.一方肝悪性リンパ腫は多く,均一で,きわめて低エコーの結節となり,後方エコー増強も伴う.時に嚢胞と誤診されることもあり,注意すべきである.今回経験された症例も後方エコーの軽度増強を伴う,きわめて低エコーの結節であり,カラードプラ検査,造影超音波検査などから,充実性腫瘤と診断したが,きわめて髄様な結節と考え,悪性リンパ腫を疑った.両病変とも,多血性の腫瘍を呈し,造影所見だけで鑑別することが困難な場合がある.また,本症例はC型肝炎抗体陽性だったが,C型肝炎には悪性リンパ腫が合併しやすいという説もあり,C型肝炎に発症しただけで,両病変を鑑別することは困難である.結節が肝表面に存在し,多重反射が影響して,内部の細かいエコーパターンの読影もできない点が更に鑑別を困難にしたものと考えた.
【結語】
悪性リンパ腫と鑑別困難な肝細胞癌の症例を経験した.きわめてエコーレベルが低く,後方エコーの増強を呈する肝細胞癌の存在にも注意すべきと考えた.