Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

一般口演
基礎:弾性計測

(S353)

超音波とMRIを使用したマルチモダリティによる関節軟骨の非侵襲的弾性評価

Non-invasive multi-modality evaluation of articular cartilage elasticity using MRI and US

青木 孝子1, 新田 尚隆2, 渡辺 淳也3, 古川 顕1, 新津 守4

Takako AOKI1, Naotaka NITTA2, Atsuya WATANABE3, Akira FURUKAWA1, Mamoru NIITSU4

1首都大学東京人間健康科学研究科 放射線科学域, 2産業技術総合研究所ヒューマンライフテクノロジー研究部門 医用計測技術グループ, 3帝京大学ちば総合医療センター整形外科, 4埼玉医科大学放射線科

1Radiological Science, Graduate School of Human Health Science, 2Human Technology Research Institute, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST), 3Orthopedic Surgery, Teikyo University Chiba Medical Center, 4Radiology, Saitama Medical University Hospital

キーワード :

【背景・目的】
変形性関節症(OA)はプロテオグリカンの減少や表層コラーゲン線維の変性を特徴とする軟骨変性から始まり,保水性の低下等に伴う軟骨の荷重保持力の低下が進行する.荷重保持力低下に伴う物理特性の評価は従来関節鏡を用いた軟骨弾性評価により侵襲的に行われている.非侵襲的な弾性測定法としては,スペックルトラッキング等に基づく従来の超音波エラストグラフィ法などがあるが,軟骨に関してはその内部は無エコーであるため適用が難しい.一方,音速は物質の弾性を反映することが知られており,超音波(US)を用いることにより軟骨の弾性測定が非侵襲的に行える可能性がある.本研究の目的は,MRIによる幾何学計測と超音波の伝搬時間計測を組み合わせた,マルチモダリティによる音速測定法の有用性を検討することである.
【対象と方法】
ブタ膝軟骨標本(n=24)とし,内・外側大腿関節顆から各2,計4つずつ直径12mmの円盤状に採取し,軟骨下骨を取り除いた.各標本の厚さは,3T-MRI画像を使用して測定した.また,各標本内における超音波の伝搬時間は超音波診断装置におけるBモード画像(Bm)から算出した.Bモード画像で測定される厚さは生体内換算距離であることを考慮し,マルチモダリティ法(MR-Bm)による真の音速値を次の定式によって算出した: 1530 (m/s)×MR-thickness(mm)/Bm-thickness(mm)実測値の参照として,各標本の厚さはノギス(Vc)を用いて測定した.伝搬時間はトランスデューサーを使用したA-mode法により,Bモード画像よりも高い分解能で測定して,音速を算出した.マルチモダリティ(MR-Bm)から算出した音速は,A-modeから得られた音速の参照値と比較し,精度を検証した.またIn vivo研究として健常ボランティア11人(平均年齢36.1年)を対象としてヒトの膝の生体内計測を行った.本研究は,首都大学東京倫理委員会の承認を受け,コンセンサスの得られた被験者のみを対象とした.
【結果】
VcとMRIから測定した標本厚さは,それぞれ2.73±1.00 mmおよび2.63±0.95 mmであった.また,A-modeおよびMR-Bmから得られた音速は,それぞれ1629±74m/sおよび1575±119 m/sであった (p<0.05).生体の内側と外側大腿関節顆の軟骨厚は,それぞれ1.63±0.28 および 1.67±0.39 mmで,音速は,1649.9±78.5m/sおよび1641.9±77.9 m/sであった.
【考察】
本研究により得られた軟骨の音速は,ブタ標本,人生体内測定ともに先行研究と同等であり,MRIとUSを組み合わせた軟骨の音速測定による非侵襲的評価の有効性が示された.今後は材料試験機による圧縮試験などによる検証を行い,さらに本評価法の妥当性を検証する必要があると考えられた.基礎実験から,軟骨の弾性評価が可能であることが示された.OAは加齢性に増加し,初期は症状がなく,画像診断では指摘できない.生化学的変化に加え,物理学的変化の評価によって,より早期にOAの徴候を捉えられる事が期待される.
【結論】
MRIとUSを用いたマルチモダリティによる生体内軟骨の音速測定は,軟骨の非侵襲的弾性評価法として有用であることが示唆された.