Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

一般口演
基礎:血流・ドプラ計測

(S338)

雑音を送波に用いる広帯域ドプラ法

Wideband Doppler method using noise transmission

田中 直彦

Naohiko TANAKA

芝浦工業大学システム理工学部

College of Systems Engineering and Science, Shibaura Institute of Technology

キーワード :

【はじめに】
現在広く用いられているカラードプラ診断装置には,高速血流を観測した場合に生じるエイリアシングの問題がある.この問題を解消するために広帯域ドプラ法を提案し,実用化に向けた検討を進めてきた.当初は短パルスの広帯域送波を用いて広い範囲の速度を推定する方法について検討し,一定の成果が得られた.ただしこの方法では送波ピーク音圧を高くすることが要求され,進むべき方向として適切とは言えない.そこでピーク音圧の低い広帯域変調波を送波に用いる方法について検討している.広帯域ドプラ法では,送波帯域が確保されていれば,波形は選ばない.このことを示すために,帯域制限された雑音を送波に用いる場合の広帯域ドプラ法について検討した.
【方法】
変調波を送受波する広帯域ドプラ法では,速度推定の前段でパルス圧縮処理を行う.このためのパルス圧縮には,送波信号を複素化した参照信号を用いて複素相互相関により行う.この実際の処理は周波数領域で行う.一般には相関を求める送波と受波をそれぞれフーリエ変換し,これから求めたクロススペクトルをフーリエ逆変換して相関出力を得る.ただしこの方法では,相関出力の帯域が送波帯域より狭くなり,広帯域ドプラ法の特徴が生かし切れないという問題がある.そこで,クロススペクトルの振幅の平方根をとることでクロススペクトルの帯域を拡張する.これにより雑音や反射体速度のばらつきの影響が抑えられる.こうして得られた相関出力にレンジゲートを適用し,所望深度の信号を切り出して速度を推定する.これ以後の処理はパルスを用いる場合の広帯域ドプラ法と同様である.
【結果】
本方法が様々な波形の送波信号に適用できることを示すために,帯域制限された雑音を送波に用いる場合について,速度推定シミュレーションを行った.送波信号は,中心周波数3MHz, 半値幅2.5MHz のハニング窓で周波数特性が与えられるフィルタに白色雑音を通過させ,また時間軸にも窓をかけて生成した.信号長は200μsである.その結果,反射体速度のばらつきや送波と無相関の雑音がある場合についても,従来のカラードプラ法におけるナイキスト限界の3倍程度の範囲で,良好な速度推定結果が得られることが確認できた.
【まとめ】
エイリアシングのない血流イメージングを実現するための広帯域ドプラ法について検討している.信号長の長い変調波を送波に用いることで,MI値を高くすることなく広い範囲の速度推定が可能となる.このときの送波波形は何でもよく,帯域さえ確保されていれば良好な速度推定ができることを示した.またパルス圧縮における帯域拡張処理の有効性についても示した.これにより,速度推定法としての広帯域ドプラ法は完成の域に達したと考えるが,ファントム実験等で使用しているMTI処理は依然旧世代のものである.広帯域ドプラ法にふさわしいMTI処理についてさらに検討したい.