Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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cover

2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 体表臓器
ワークショップ11 甲状腺結節の超音波スクリーニング−放射線被ばく後検診をめぐって−

(S308)

オーバービュウ

Over View

貴田岡 正史

Masafumi KITAOKA

公立昭和病院内分泌代謝内科

Division of Endocrinology and Metabolism, Showa General Hospital

キーワード :

人間ドック受診者を対象に高解像超音波断層検査を施行すると,結節性病変は非常に高率に発見される.すなわち,腫瘍や腺腫様甲状腺腫,慢性甲状腺腫の頻度はほぼ剖検例のそれとほぼ一致する.結節性病変のスクリーニングにおける存在診断の有効性に疑問の余地はなく,さらにびまん性甲状腺疾患のスクリーニングにも有用であるが,反面,臨床上治療対象にならない病変が高頻度に発見されるため,受診者に過剰な精神的負担を与えてしまう弊害も指摘されている.甲状腺超音波検診の実施にあたっては,各甲状腺疾患の効率良いスクリーニング法を検討するとともに,大量に発見される甲状腺病変の取り扱いについても十分に考慮することが必要である.甲状腺癌の大部分を占める分化癌,特に乳頭癌はその一部を除いて緩徐に進行することが知られている.従って,その予後を考慮すると触診可能となってから精査加療の対象として良いとも考えられる.また,これらの超音波断層検査の有所見者すべてを精査することは費用対効果の点でも検診の本来の目的に沿わないといえる.従って現在のところ一般論として,甲状腺について超音波断層検査を用いてマススクリーニングを行うことには,社会的な意味での疾病管理としては不必要であるとする意見が多い.即ち,甲状腺の画像診断は視診・触診で形態学的に異常を指摘された場合か,あらかじめ機能異常が明かである症例を適応とすることが妥当とする考え方である.しかし,画像診断の進歩は副次的に甲状腺結節の存在を明らかにする機会を著しく増加させた.例えば動脈硬化の指標としての頸動脈エコーが一般化しているが,その際に付随的に甲状腺病変が指摘されるケースである.またCTスキャンの高速・高解像度化は一度に広範囲の撮像を容易にし,その結果として甲状腺病変が指摘され精査対象となることが多くなった.さらにPETによる有料癌検診は良悪性の別なく甲状腺結節の存在を明らかにする.受診者が癌スクリーニングを目的に高額の費用を負担しているだけに,二次精査を担当する甲状腺診療専門医療機関に対する負荷が大きくなっている現状が存在する.こうした状況下で事態は新たな展開をきたした.福島第一原発事故による放射線被曝の発生である.チェルノブイリ原発事故後これまで集積された成績では小児甲状腺癌が数年後からあきらかに増加している.両事故後の被曝状況は明らかにことなるが福島県民の不安は非常に大きく適切な対応が喫禁の課題である.こうした中で18歳以下の全県民を対象とした甲状腺超音波スクリーニングが開始されたが,その意味付けや精査基準の明確化は極めて重要と考えられる.本ワークショップを通して的確な情報の共有が実現することを期待したい.