Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 産婦人科
シンポジウム4 妊娠初期胎児スクリーニングを考える

(S278)

市民の立場から超音波検査を考える

The examination of supersonic wave from citizen’s point of view

加納 昭彦

Akihiko KANO

読売新聞東京本社医療情報部

staff writer, YOMIURI SHIMBUN

キーワード :

 超音波検査は近年,画像精度の向上で,胎児の臓器などの異常が妊娠の早い段階でわかるようになったという.例えば,心臓から肺に血液を送る肺動脈と全身に送る大動脈が入れ替わっている完全大血管転位症.重症だと生まれた後に命を落とすことも少なくないというが,超音波検査で見つけることができれば,出産後の手術で9割以上が救命できると聞く.腹部から腸や肝臓がはみ出している臍帯ヘルニアは,赤ちゃんが産道を通る時,飛び出した臓器が傷ついて大量出血で死亡する恐れがある.これも超音波検査で事前に見つけることができれば,帝王切開手術で出生後に手術で治すことができるという.こうした点を考えると,超音波検査は助かる可能性のある赤ちゃんを助け,後遺症をできるだけ減らすためにあると言えるだろう.その一方,画像精度の向上は,胎児の染色体異常の可能性が示唆されるという難しい問題も生み出している.胎児の首の後ろに現れるむくみが厚ければ厚いほど,ダウン症など染色体異常や心疾患の可能性が高まるという.実際は,むくみが厚くても最終的に異常はないことの方が多いというが,妊娠初期に見つかるため,正しい知識のないままに人工妊娠中絶につながる懸念もある.2011年7月に読売新聞の医療ルネサンスで5回にわたって連載した「出生前診断」という企画記事で取材した,女性のことが忘れられない.その女性は妊婦健診の超音波検査でむくみを指摘され,パニックに陥った.女性は超音波検査を「赤ちゃんの顔が見られるサービス」だと考え,超音波検査に出生前診断の要素があることを知らなかった.女性はその後,無事に元気な男児を出産したが,1歩間違えば中絶する危険もあった.今後さらに超音波の技術が向上すると,出生前診断としての色合いがさらに高まる可能性がある.妊娠初期の超音波検査とは何かについて,医療者側はカップルに事前に平易な言葉で説明するべきだろう.それとともに,出産する前に胎児の様々なことが判明する時代であることをふまえ,カップルも色々なことを想定して日頃から話し合うことが必要ではないか.むくみの意味や染色体異常などに関する基礎的な知識や出生前診断の種類,意味,その限界などを伝える遺伝カウンセリングは大切だが,地域によって体制に大きな隔たりがある.それを解消する努力も求められる.妊婦健診で欠かせない技術である超音波検査.その可能性や課題について,市民の目線で考えたい.