Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 消化器
ワークショップ6 消化器疾患診療における超音波Elastography の有用性

(S266)

消化管疾患のElastography

Elastography of gastroenteropathy

今村 祐志1, 畠 二郎1, 飯田 あい1, 眞部 紀明1, 楠 裕明2, 鎌田 智有3, 河合 良介1, 春間 賢3

Hiroshi IMAMURA1, Jiro HATA1, Ai IIDA1, Noriaki MANABE1, Hiroaki KUSUNOKI2, Tomoari KAMADA3, Ryousuke KAWAI1, Ken HARUMA3

1川崎医科大学検査診断学(内視鏡・超音波), 2川崎医科大学総合臨床医学, 3川崎医科大学消化管内科学

1Division of Endoscopy and Ultrasound, Dept. of Clinical Pathology and Laboratory Medicine, Kawasaki Medical School, 2General Medicine, Kawasaki Medical School, 3Gastroenterology, Kawasaki Medical School

キーワード :

【目的】
消化管疾患の診断において,壁の硬さの評価は疾患の鑑別に有用であり,X線二重造影や内視鏡検査においても用いられている.超音波を用いて組織弾性を客観的に映像化する手法としてElastographyが注目されており,乳腺,甲状腺,前立腺,肝臓,膵臓などの領域で有用性が報告されているが,消化管疾患に対する有用性の検討に関する報告は皆無に等しい.そこで消化管疾患におけるElastographyの有用性を検討した.
【対象と方法】
2009年8月から2011年8月までにElastographyを施行した消化管疾患症例の中の114名を対象とした.内訳は,胃癌40例,大腸癌31例,十二指腸癌1例,胃悪性リンパ腫6例,小腸悪性リンパ腫10例,クローン病22例,胃潰瘍2例,虚血性腸炎2例.超音波装置は東芝社製AplioTM,8 MHzリニアプローブを用いた.全例特殊な前処置は施行せず,病変が明瞭に描出される部位で呼吸を停止し,病変直上においてプローブで用手圧迫を行った後に機器内蔵のソフトを用いてストレイン値を算出した.病変ならびに近接する正常壁両部位のストレイン値を測定し,正常壁のストレイン値を病変のストレイン値で除した値(以下,ストレイン比)を病変の硬さを反映する指標として使用した.なお本研究は院内倫理委員会の承認ならびに患者からのinformed consentを得て行っている.
【結果】
全例においてストレイン値の測定は可能であり,圧迫など検査手技に伴う重大な問題は経験しなかった.ストレイン比は胃癌18.9±21.1(mean ± SD),大腸癌13.7±12.9,胃悪性リンパ腫3.1±2.3,小腸悪性リンパ腫7.3±8.8,クローン病8.0±9.3,胃潰瘍4.0±1.0,十二指腸癌16.0,十二指腸悪性リンパ腫2.86であった.胃癌と胃悪性リンパ腫との比較では有意に胃癌が高値を示し(p<0.01),胃癌と胃潰瘍との比較では胃癌が高値を示す傾向であった(p<0.1).十二指腸癌と十二指腸悪性リンパ腫も同様に十二指腸癌が高値を示した.癌全体(16.6±18.0)と悪性リンパ腫全体(5.5±6.9)の比較でも有意に癌が高値を示した(p<0.01).同じ疾患の中で異なった経過を呈した症例の比較として,一過性型虚血性腸炎は0.9であったが,拡張術を要した狭窄型は17.9と高値を示した.
【考察】
正常壁と病変部とのストレイン値の比較を行うことで消化管疾患においてもElastographyは測定が可能であった.悪性リンパ腫は癌よりも軟らかい腫瘍であることが知られているが,今回の検討においても有意な差がみられたことから,消化管疾患に対してもElastographyは病変の硬さを反映できていると考えられ,消化管疾患診断における有用な検査法となり得ると考えられた.また,一過性型虚血性腸炎と拡張術を要した狭窄型虚血性腸炎においても差がみられたことから,予後の判定にも用いられる可能性があると考えられた.
【結語】
消化管疾患においてもElastographyは臨床応用が可能であり,今後鑑別診断を含めたより詳細な病態の評価法として期待される.