Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 血管
ワークショップ14 静脈エコーで何処まで観るか?:目的別にみた検査法の工夫

(S226)

うっ血性心不全患者における深部静脈血栓:静脈エコーの必要性と検査法の工夫

Need of ultrasound in the evaluation of deep vein thrombosis in congestive heart failure and ingenuity for examination

松村 誠

Makoto MATSUMURA

埼玉医科大学国際医療センター心臓内科

Devision of Cardiology, Saitama Medical University International Medical Center

キーワード :

【はじめに】
うっ血性心不全は深部静脈血栓症(DVT)の危険因子の一つとされ,その危険度は中等度に属する.我々が参加した「急性内科疾患の入院患者における深部静脈血栓症の発現頻度に関する調査」に関する多施設共同横断研究結果ではNYHAⅢ度以上の心不全患者の34.1%に静脈血栓が検出されている.また,当科入院例だけに限ると無症状でも静脈血栓は40%以上に認められている.しかし,本邦では未だ心不全例におけるDVT合併に対する認識,理解度は低く,現時点では無症状・無徴候例に対して系統的に静脈エコーを実施する施設は少ない.本講演ではうっ血性心不全患者における静脈エコーの実施状況を分析し,検査時の留意点,工夫などについて考察する.
【静脈エコーの実施状況】
DVTに伴う下肢の疹痛や腫脹はうっ血性心不全でもみられるため,強い疼痛や血流うつ滞性皮膚炎が存在する場合を除き,一般に血管エコーは行われない.また,無症候例も多い.とくに低左心機能や心房細動などがあり,抗凝固療法を行っている場合には静脈系の血栓の合併は過小に評価される傾向にある.その他,担当医の静脈血栓に対する認識や検査法に対する理解不足,ベットサイドでのエコー検査の経験不足も大きな理由である.
【検査時の留意点及び工夫】
うっ血性心不全では救急搬送あるいは緊急入院になる例が多く,エコー検査は集中治療室あるいは病室で行われ,検査時の体位は背臥位あるいはファウラー位(鼠径部は屈曲している)に制限される.そのため,通常の下肢静脈エコー検査のように体位を変換させることができず,腸骨から大腿部中枢側の血管の観察範囲は制限される.一方,下腿部では静脈径は通常より減少するため,血栓の検出は必ずしも容易ではない.とくに下腿浮腫が高度の症例でその傾向が強い.このような例に対しては,基本手技の一つではあるが,圧迫法と血流誘発法の活用(ミルキング)が有用である.人工呼吸器使用例では作動に伴う血流の呼吸性変化を観察することも血栓の診断に有効なことがある.また,大腿部より中枢側で血栓を疑わせるエコー像が認められる場合には,主治医と相談して可能なら一時的にべットをフラットにして観察することも考慮するべきである.一般に汎用型超音波診断装置に比較して画像の解像度が低いとされるポータブル型の装置が用いられることが多く,静脈血栓を確実に診断するには,適正な探触子の選択,装置設定に関する知識が必要である.下肢の浮腫や腫脹が強い場合には大腿部以下であってもリニア型探触子よりも周波数の低いコンペックス型が診断に有効なことがある.症例によつては探触子の交換,また,それでも良好な画像が得られない場合には,高解像度の汎用型装置による再検査を考慮する.
【血栓の判読】
高度なうっ血性心不全患者では血栓がなくても静脈のうっ滞は強く,しばしば血栓類似のエコー像が観察される.これらの多くは圧迫による非圧縮所見は認められず,また,血流誘発も確認できるため,血栓との鑑別は可能である.ただし,肥満例,高度下肢腫脹・浮腫例,疼痛の強い例では必ずしも診断に必要な十分な圧迫が行えないことがあり,血栓の判読に苦慮する場合もある.
【おわりに】
うっ血性心不全患者では全身の臓器に対する循環状態が不安定であり,静脈血栓に対する過大評価は抗凝固療法の強化による出血のリスク,過小評価は肺血栓塞栓の発症リスクを高め,治療や予後に影響を及ぼす可能性があることを認識して検査に望むことが大切である.