Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 血管
シンポジウム11 「機能診断」としての血管エコーを活かす:他の診断法との比較から

(S223)

ASO患者におけるTVFとbaPWVの関係

Relationship of TVF and baPWV in patient with ASO

久保田 義則, 田中 教雄, 佐野 道孝, 岡島 年也

Yoshinori KUBOTA, Norio TANAKA, Michitaka SANO, Toshiya OKAJIMA

国立循環器病研究センター臨床検査部

Laboratory of clinical physiology, National Cerebral and Cardiovascular Center

キーワード :

【はじめに】
我々は下腿動脈の閉塞性病変をスクリーニングする方法として,膝窩部と足首での超音波血流波形の出現時間差を血流波通過時間(Transit time of Vessel Flow:TVF)として提唱し,下腿動脈の閉塞性病変のスクリーニング法としての有用性を報告した.しかし,足首での血流波形出現時間の評価方法に関する検討は不十分であり,血流波形出現時間と他の検査法との関連も検討していなかった.
【目的】
足首での血流波形出現時間の計測精度を上げるために,計測値を変動させる要因についての基礎的検討を行い,基礎検討を元にABIとbaPWV(下肢脈波伝播速度)との関連を検討した.
【方法】
TVF計測時に計測される,足首での血流速波出現時間をR-Ptime(心電図R波出現時間と血流波形のピーク流速出現時間の差)とし検討を行った.R-P timeの計測は3波形の平均を用いた.①検査開始時のR-P timeと仰臥30分後の数値を比較した.②2011年1月から2011年12月までの間に,片側または両側下肢動脈に有意狭窄または閉塞を有する症例を対象として,下肢動脈超音波検査とbaPWVの両者を一週間以内に施行しえた症例について検討を行った.心房細動症例,高度大動脈弁狭窄症例,人工血管置換術例,ステント留置術例,baPWVの計測不可能例を除外した64例128肢について両者を比較した.年齢は44歳から88歳(男48例:女:16例,平均年齢72歳)であった.
【結果】
①検査開始時と30分後を比較すると,安静30分後で4〜16msec(平均6msec)のR-P timeの延長が見られた.②ABI(Ankle Brachial Pressure Index)は0.33〜1.32(平均0.87)であった.ABI正常例では,95%の症例においてR-P time が330msec以内にあり,350msec以上の症例はABI低下例であった.R-P timeとbaPWVの相関係数は0.59と負の相関を示した.年齢を合致させた健常対象群は有効症例数が得られなかった.
【考察】
R-P time の計測値は安静後に延長の傾向を示した.これは血圧や心拍数などの生理的変動によるものと思われるが,多くの症例では通常の検査手順での計測で安定した数値が得られる.足首でのR-P time のみで下肢動脈の有意狭窄・閉塞の存在を指摘することはできないが,350msec以上の症例では有意狭窄・閉塞の存在が疑われる.R-P time はbaPWVとの関連より,動脈硬化の進展により短縮傾向を示すことが示唆された.R-P timeとbaPWVは血流波と圧脈波の伝播を計測していることから,類似の指標と思われるが,相関から外れる症例も多くあり,異なる因子を含めて計測していると思われる.我々の施設では健常対象群のデータを得ることが出来ないが,健常対象群との比較などにより,さらに多くの知見が得られるものと期待される.