田中 秀和, 松本 賢亮, 辰巳 和宏, 平石 真奈, 三好 達也, 辻 隆之, 金子 明弘, 漁 恵子, 川合 宏哉, 平田 健一

Hidekazu TANAKA, Kensuke MATSUMOTO, Kazuhiro TATSUMI, Mana HIRAISHI, Tatsuya MIYOSHI, Takayuki TSUJI, Akihiro KANEKO, Keiko RYO, Hiroya KAWAI, Ken-ichi HIRATA

神戸大学大学院循環器内科学分野

Division of Cardiovascular Medicine, Department of Internal Medicine, Kobe University Graduate School of Medicine

キーワード :

【目的】
拡張型心筋症（DCM）の予後不良因子である機能性僧帽弁閉鎖不全症（FMR）は心臓再同期療法（CRT）により改善することが知られているが,その詳細なメカニズムは明らかでない．本研究の目的はCRTを施行したDCM患者における急性期,慢性期のFMR改善のメカニズムを左室形態,dyssynchronyの観点から検討することである．
【方法】
対象はCRTを施行した中等度以上のFMRを有するDCM 44例と年齢,性別をマッチさせた正常群40例である．心エコー図検査はCRT前,CRT後急性期（5±2日）,慢性期（6±1ヶ月）に施行した．左室dyssynchronyはspeckle-tracking radial strainを用い,左室短軸像心室中部レベルの前部中隔と後壁のpeak strainの時間差として算出した．左室全体の形態指標として左室容積,sphericity indexを,左室局所の形態指標として後室間溝と後乳頭筋,前乳頭筋の角度（α,β）を算出した．慢性期に左室収縮末期容積が15％以上改善した症例をresponderと定義した．
【結果】
DCM群のαは正常群と有意差を認めなかったが,βは正常群に比し有意に小で（147±10° vs. 173±14°, p＜0.001）,DCM群の前乳頭筋は後壁側に偏位していた．またresponderとnon-responderのαはCRT前,急性期,慢性期ともに有意差を認めなかったが,responderのβは慢性期でのみnon-responderに比し有意に大であった（164±10° vs. 153±8°, p＜0.001）．多変量解析では,CRT後急性期のFMR改善における独立規定因子はcoaptation heightの改善（β=0.44, p＜0.001）とCRT前の左室dyssynchrony（β=0.303, p＜0.01）,CRT後慢性期のFMR改善における独立規定因子はβ（前乳頭筋の後壁側への偏位）の改善（β=0.50, p＜0.001）とsphericity indexの改善（β=0.44, p＜0.001）であった．
【結論】
DCMでは非対称的な左室局所のリモデリングが認められ,この非対称性はCRTにより改善した．またCRT急性期と慢性期では異なる規定因子がFMRの改善に寄与していることも証明された．