Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 循環器
シンポジウム2 心不全の診断と治療

(S186)

心エコー図で見極める重症心不全における外科的治療のタイミング

Timing of Surgical Treatment for End-Stage Heart Failure Decided by Echocardiography

小板橋 俊美, 猪又 孝元, 石井 俊輔, 渡辺 一郎, 品川 弥仁, 西井 基継, 竹内 一郎, 和泉 徹

Toshimi KOITABASHI, Takayuki INOMATA, Syunsuke ISHII, Ichiro WATANABE, Hisahito SHINAGAWA, Mototsugu NISHII, Ichiro TAKEUCHI, Tohru IZUMI

北里大学循環器内科学

Cardio-Angiology, Kitasato University

キーワード :

【目的】
心不全は慢性進行性の病態である.心不全薬物治療の飛躍的進歩にもかかわらずなお予後不良であり,内科的治療の限界を超える重症例では外科的治療を考慮せねばならないこともしばしばである.しかしながら外科的治療は侵襲的であり,低左心機能の重症心不全例に容易に選択できる治療法ではない.手術リスクと予後改善効果を鑑み,適応とタイミングを見極める必要がある.臨床的に外科的介入が必要であると判断し,重症機能性僧帽弁逆流(FMR)に対し僧帽弁形成術(MVP)を施行した重症心不全例の心エコー図所見と術後の予後について解析した.
【方法と結果】
対象は,重症FMRを伴う重症心不全で,2008年3月から2011年2月までにMVPを施行し,術後経過を追えた7例である.原因疾患は,拡張型心筋症3例,心サルコイドーシス1例,慢性心筋炎1例,Churg-Strauss症候群1例,肢体型筋ジストロフィー関連心筋症 1例で,手術時の平均年齢42歳(31〜68歳),術前の平均左室駆出率(LVEF)は28%であった.全症例で急性増悪期心不全治療後のNYHA機能分類はⅢ度で,うち5例はカテコラミンもしくは強心薬の持続静脈内投与からの離脱が不可能であった.術後1か月以内の死亡例は2例で,5例は退院可能となった.経過観察期間は術後死亡を除き平均18か月で,4例がNYHAⅡに改善し,心不全増悪入院を来してないが,1例は術後NYHAⅡで経過した後心不全増悪入院をきたし,NYHAⅢに増悪した.術前の心エコー図所見では,血行動態指標として一回心拍出量(SV)と三尖弁逆流最大血流速度から求めた圧較差(TRPG)を用い経時的変化を追うと,NYHAⅣの心不全増悪時にはTRPGは高値でSVは保たれていても,減前負荷治療によりうっ血が軽減されるにつれSVが低下しており,うっ血が改善しきる前に低心拍出が露呈し,カテコラミン投与下にてかろうじて血行動態を保っているという薬物治療の限界を示唆する病態が明らかとなった.術後心不全増悪例は,MVP後中等度のMRが残存し,術前からの右心機能障害を認めた.また,術後死亡の一例は右心機能不全が原因と考えられた.もう一例の死亡例は生存例と術前術後の心機能指標に差はなかったが,術前のbody mass indexは16.2,血清アルブミン値 3.1 mg/dlと心臓悪液質の状態であった.
【結論】
心不全治療の過程で露呈する低心拍出とうっ血の共存は,薬物治療の限界と共に外科的治療を考慮すべき時期を示唆している.非侵襲的に繰り返し施行できる心エコー図では,心不全病態の経時的変化を検出することが可能であり,次なる治療戦略を立てねばならぬ病態を明らかにしうる.MVPは,FMRを合併する重症心不全の症状および予後の改善には有効であるが,手術リスクの予見には右心機能も考慮すべきであり,術後の右室補助装置導入の提言を含め,術前の右心機能評価は重要であると考える.また,心エコー図所見のみならず,栄養状態を含む全身状態を考慮し,手術適応を決定することも重要である.