Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 基礎
ワークショップ10 超音波医療における安全性に関する基礎知識

(S180)

生体に対する超音波照射の影響:組織照射モデルによるin vitroの検討

In vitro analysis of the safety of ultrasound exposure: by using a model assembled on a cell-culture system

紺野 啓, 谷口 信行

Kei KONNO, Nobuyuki TANIGUCHI

自治医科大学臨床検査医学

Department of Clinical Laboratory Medicine, Jichi Medical University

キーワード :

【目的】
近年,ある種の超音波診断装置において用いられる,音圧が高く持続時間の長い超音波について,その安全性にある種の懸念が示されている.一方,われわれは超音波照射による音響放射圧が細胞に与える影響を明らかにするため,実験システムを考案し開発をすすめてきた.本システムは生体組織に対する超音波照射をモデルに作成したものであるから,その安全性の検討にも準用が可能である.今回は本システムを用いて超音波の熱的作用とその安全性について検討した.
【対象と方法】
Ⅰ.システムの概要
細胞培養装置と観察用顕微鏡,および超音波照射装置で構成されている.振動子の周囲には発熱の影響を最小限に抑えるための恒温装置が装備されている.今回はこのうち細胞培養装置と超音波照射装置(振動子の周波数5MHz)で構成される超音波組織照射モデルを用いて検討を行った.
Ⅱ.実験の概要
1.実験に先立ち,まずultrasound power meter model UPM-DT-10(以下UPM)を用いて,実際の臨床で広く使用されている超音波骨折治療器SAFHS(SATA 30mW/cm2)を比較対象とし,同等の出力になる負荷電力を求めることにより,実験で使用する負荷電力の大まかな範囲を決定した.
2.通常の細胞培養時と同様,超音波振動子をガラスベースディッシュ内に設置して培養液(水)内に埋没させ,培養装置と超音波照射部の恒温装置を同時に作動させて37℃の培養環境を維持した.この状態で,上記により決定した負荷電力の範囲で,負荷電力,繰り返し周波数(0.5-100Hz),バースト幅(繰り返し周期の10-100%)を変えながら超音波を照射し,振動子から2cmの位置のディッシュ底面に貼り付けた測温抗体で培養液に生じる温度変化を観察した.
3.温度変化は超音波を照射して5分間観察後,超音波照射を中止して5分間観察した.
【結果】
1.上記条件で求められた超音波骨折治療器SAFHSと同等のパワーとなる負荷電力は0.1-2W程度であったことから,本実験で用いる負荷電力は0.1-5wの範囲とした.
2.今回の実験の範囲で負荷電力あるいはバースト幅の増加ともに対象の温度上昇は増加し,最大1.2℃の温度上昇が観察された.
3.ほとんどの場合,対象の温度は超音波照射開始30秒後までに速やかに上昇し,逆に照射中止後は30秒までに速やかに下降した.
4.繰り返し周波数が低く,負荷電力が小さい場合を除き,超音波照射開始30秒後までの速やかな温度上昇効果は,時間平均のバースト幅が同じ場合,照射パターンにかかわらずほぼ同等と考えられた.
5.繰り返し周波数0.5Hzの場合,負荷電力が比較的高い場合には,照射開始2分以降の温度上昇はきわめて不安定で,短時間での上昇・下降の繰り返しが観察された.
【考察】
今回の組織照射モデルは,照射条件など,必ずしも生体組織における超音波照射を忠実に再現しているわけではない.しかし今回の解析により,超音波照射は開始直後から照射対象の急激な温度上昇をもたらし,その程度は照射する超音波のパワー,バースト幅および照射時間に依存すること,さらに中止により組織温度の速やかな下降が得られることなど,超音波照射の熱的作用の概要を示すことができた.また,繰り返し周波数が極端に低い場合の温度上昇パターンからは,パワーが強く照射時間が長めでも,照射間隔を開けることにより,組織の温度上昇効果を抑制できる可能性が示唆されたものと考える.現在,これらの解析結果を活用しながら実際の細胞培養実験を施行中だが,今後は熱的作用により細胞に生じる変化についても検証したい.