Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 基礎
ワークショップ10 超音波医療における安全性に関する基礎知識

(S177)

キャビテーションの生体作用

Bioeffects of Cavitation Phenomena

工藤 信樹

Nobuki KUDO

北海道大学大学院情報科学研究科

Graduate School of Information Science and Technology, Hokkaido University

キーワード :

【はじめに】
 超音波の生体作用は,大きく熱的作用と非熱的な作用とに分けられる.本発表では,非熱的作用に注目し,なかでも最も重要な役割を果たすと考えられるキャビテーション現象を取り上げる.
【音響エネルギーから振動エネルギーへ】
 超音波の作用において気泡が大きく取り上げられるのは,圧力下で容易に膨張・圧縮する特徴による.水や生体は,大きな圧力が加わってもほとんど圧縮されず,物質の動きは小さい.これに対し,気泡は,同じ圧力下でも大きく膨張・収縮するため,激しい物質の動きを生じる.これは,気泡が超音波の音響エネルギーを効率良く振動エネルギーに変換しているといえる.
 変換の効率は,気泡径で決まる固有の振動周期と超音波の周期が一致する共振条件で最も高い.一般には,肺胞など一部を除き生体内には共振径の気泡が存在しない.それゆえ,生体内にも存在するキャビテーション核と呼ばれるさらに小さな気泡を共振径まで成長させる連続的な超音波照射に注意すれば,安全性が確保できる.これに対し,超音波造影剤の気泡径は共振径にほぼ一致するので,診断用の短い超音波パルスであっても,その音響エネルギーを効率良く振動エネルギーに変換することができる.
【振動エネルギーから他のエネルギーへ】
 気泡の振動エネルギーは,様々な機序により異なる形態に変換される.変換の機序は,気泡振動の程度で異なる.振動幅が小さい場合をノンイナーシャル(非慣性)キャビテーション,大きい場合をイナーシャル(慣性)キャビテーションと呼ぶ.
非慣性キャビテーション:音響インピーダンスが周囲と大きく異なることから,気泡は強い放射圧を受け,近傍の細胞に機械的な作用をもたらす.持続的に振動する気泡の周辺にはマイクロストリーミングと呼ばれる渦流が生じる.この渦流は周囲の細胞に強い応力を与える.また,気泡の収縮時には,内部気体が圧縮されて温度が上昇し,発生した熱は熱伝導により気泡外に散逸する.これにより,超音波の熱的作用が増強される.
慣性キャビテーション:気泡に加わる音圧が高くなると,気泡の振動様式が変わる.音圧が低い場合,気泡は超音波の圧力に従って膨張・収縮する.しかし,高い音圧下では,気泡の膨張・収縮に従って運動している周囲液体の持つ慣性力が,超音波の圧力よりもはるかに大きくなる.このような条件では,強い圧縮を受けて収縮した気泡の内部に,非常に短い時間内に急激な圧力上昇が生じる.すなわち,慣性キャビテーションは,超音波の音響エネルギーを非常に短い時間内に,非常に狭い範囲に集中して放出するエネルギーの濃縮器として機能していると考えることができる.
 慣性キャビテーションが生じた場合,気泡内部の温度は数千度に達し,水分子が熱分解されてフリーラジカルを生じる.発生したラジカルは,非常に不安定で反応性が高く,直接あるいは 2次的に生体組織に化学的な作用を及ぼす.この現象は,音響エネルギーを化学エネルギーに変換する現象と考えることができる.
 また,急激な収縮に伴い,気泡形状の不安定性が高くなる.非等方的につぶれた気泡はマイクロジェットを生じる.この現象は,気泡が蓄えた音響エネルギーを,ミクロな,しかし強力な流れとして再放出する現象と捉えることができる.この流れを超音波治療の一つであるソノポレーションに用いる試みが行われている.
【まとめ】
 キャビテーション発生の機序と,その生体作用について概観した.気泡が生体に作用を与える機序を理解することは,治療を含む気泡の高度な応用を開発する上で特に重要である.