Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 基礎
シンポジウム5 バブルを使った診断と治療

(S174)

パルス超音波を用いたソノポレーションの実現に向けたいくつかの基礎的検討

Several basic studies on sonoporation using short-pulsed ultrasound

工藤 信樹1, 佐々木 東2, 滝口 満喜2

Nobuki KUDO1, Noboru SASAKI2, Mitsuyoshi TAKIGUCHI2

1北海道大学大学院情報科学研究科, 2北海道大学大学院獣医学研究科

1Graduate School of Information Science and Technology, Hokkaido University, 2Graduate School of Veterinary Medicine, Hokkaido University

キーワード :

【はじめに】
 超音波の照射により一時的に細胞膜に小孔を生じさせることで,通常は細胞に入らない物質の内部への取り込みを実現する手法をソノポレーションという.一般には,連続波もしくは波数の長いバースト超音波が照射される.超音波の強度や持続時間の増加に伴い取り込みは増大するが,細胞死も増えるので,導入効率の向上に向けた照射条件の最適化が検討されている.一方我々は,気泡が細胞の近傍に存在する条件では非常に短いパルス超音波でもソノポレーション効果生じることを見出し,これを用いたソノポレーションの実現を目指して検討を進めている.
【ソノポレーションの機序】
 一般のソノポレーションにおいて超音波の持続時間の増加とともに強いソノポレーション作用が生じることは良く知られており,短いパルス超音波でもソノポレーション効果が得られるとする我々の主張はこの事実に一見矛盾する.しかし,細胞への機械的作用が近傍気泡の膨張・収縮運動に起因すると考えると,気泡の運動を生じるにはパルス超音波の照射で十分である.一般的なソノポレーションで必要となる長い照射持続時間は,気泡運動を生じるのに必要な条件ではなく,気泡運動が細胞近傍で生じる確率を高めるために必要な条件と考えると,矛盾なく理解できる.
【診断装置のパルス超音波を用いた実験】
 超音波診断装置が発生する短いパルス超音波によるソノポレーション効果を明らかにすることを目的として,ソノポレーションによる抗がん効果の増強を確認する in vitro実験を行った.抗がん剤にはシスプラチンを,超音波造影剤としてはソナゾイドを用い,96穴プレートに培養した犬甲状腺癌株細胞を対象とした.超音波照射は,造影対応のリニアプローブ(中心周波数2.5 MHz)を造影モードに設定し,表示深度2 cm (焦点 1 cm),FR = 48 fps,MI = 1.33の条件で行った.ソナゾイドおよびシスプラチン,診断用超音波を様々な濃度および条件で用い殺細胞効果を検討した結果,診断用超音波によるソノポレーションはシスプラチンの殺細胞効果を短い照射時間で有意に増強することを確認した.
【マイクロインジェクションへの応用】
 ソノポレーションの対象とする細胞の近傍にある気泡の位置や大きさを制御することができれば,ソノポレーションの作用を制御し,細胞へのマイクロインジェクション法として利用できる可能性がある.我々は,ソノポレーション装置と気泡位置制御のための光ピンセット装置を組み合わせた実験システムを開発し,この技術の可能性について検討を行っている.

【まとめ】
 微小気泡は,超音波造影剤として広く診断の分野で用いられている.微小気泡が細胞の近傍に存在する条件を作ることにより,診断用のパルス超音波でもソノポレーションを実現できることは,治療部位の診断と治療を同時に実現できる技術として非常に重要である.治療対象となる細胞の近傍に気泡を運ぶ技術のさらなる検討が望まれる.