Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

ポスター
産婦人科:症例報告4 胎盤

(S520)

帝切時の子宮筋切開位置決定に術中超音波検査が有用であった双胎前置癒着胎盤の一症例

Efficiency of intraoperative ultrasonic examination for atypical uterine incision in the case of twin pregnancy with placenta previa

仲村 将光, 松岡 隆, 長谷川 潤一, 高橋 尚子, 市塚 清健, 岡井 崇

Masamitsu NAKAMURA, Ryu MASTUOKA, Junnichi HASEGAWA, Shoko TAKAHASHI, Kitatake ICHIZUKA, Takashi OKAI

昭和大学産婦人科学教室

Obstetrics and Gynecoogy, Showa University School of Medicine

キーワード :

【はじめに】
近年,妊産婦の高齢化や生殖補助医療の進歩により周産期合併症が複雑化している.今回,帝切時の術中超音波検査が有用であったが,一方で,診断の限界を感じた症例を経験したので報告する.
【症例】
49歳 女性 2回経妊 2自然流産(43歳 自然妊娠,47歳 米国で卵子提供妊娠)
【既往歴,家族歴】
子宮体部後壁の多発子宮筋腫(無治療)
【現病歴】
卵子提供により二絨毛膜二羊膜双胎を妊娠した.両児の胎盤は分離しており,母体の左側児の胎盤は子宮下部に,右側児の胎盤は子宮前壁に付着している状態を超音波検査で確認していた.妊娠24週の経腟超音波検査で左児の胎盤が内子宮口を完全に覆っている所見を認め,全前置胎盤と診断した.妊娠29週に血圧の軽度上昇(140/80mmHg)と尿蛋白(2+)を認め,妊娠高血圧症候群(h,p,Eo)の診断で入院管理とした.
【入院後経過】
PIHは安静と塩分制限食にて管理可能であった.また,入院後の経腟超音波検査で,胎盤が付着した内子宮口付近にカラードプラにより静脈血流が確認された.経腹超音波およびMRI画像上,二つの胎盤で子宮前壁はほぼ完全に覆われていたが,術前に癒着胎盤は疑わせる所見を認めなかった.子宮体下部横切開での帝王切開は困難であることが予測されたため,帝切時には術中超音波検査により両胎盤の位置を確認したうえで,子宮筋切開位置を決定する方針とした.妊娠32週に入り,尿蛋白が4g/日,収縮期血圧180mmHgと臨床症状が悪化し,警告出血を認めたため分娩の方針とした.
【手術所見】
全身麻酔下に下腹部正中切開で開腹し,術中超音波にて胎盤の位置を確認した所,二つの胎盤の間隙は子宮体部中央に幅約1cm,全長約7cmのスペースを認めるのみであった.電気メスでマーキングし,そのスペース切開,最初に右側の児を娩出し,続いて左側の児(前置胎盤)を娩出した.7Frネラトンカテーテルにより子宮下部を一時的に拘扼し,まず第1子の胎盤を娩出後,前置胎盤の娩出を試みたが,内子宮口付近に付着した胎盤の一部が剥離せず癒着胎盤と診断し,単純子宮全摘術を施行した.手術時間2時間30分,出血量3940g(羊水含)で,摘出子宮の病理診断はplacenta accretaであった.
【考察】
本症例は前回帝切の既往がなく,術前の超音波およびMRIからも癒着胎盤を疑う所見は認められなかったが,結果的に癒着があったことから,癒着胎盤の出生前診断の難しさを感じた症例であった.しかしながら,子宮切開部位の決定には術中超音波により充分な評価を行うことができ,児娩出までの出血コントロールも良好であり,本症例のように子宮内腔への進入経路に制限のある症例での術中超音波の活用は有用性が高いと思われた.