Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

ポスター
産婦人科:症例報告3 胎児異常

(S518)

急激な形態学的変化を呈する胎便性腹膜炎に対する超音波断層法の有用性

The usefulness of the frequent observation by the ultrasonography for the management of meconium peritonitis

片山 素子, 谷垣 伸治, 上原 一朗, 綱脇 智法, 松島 実穂, 松澤 由記子, 橋本 玲子, 岩下 光利

Motoko KATAYAMA, Shinji TANIGAKI, Ichiro UEHARA, Tomonori TSUNAWAKI, Miho MATSUSHIMA, Yukiko MATSUZAWA, Reiko HASHIMOTO, Mitsutoshi IWASHITA

杏林大学医学部産科婦人科学教室

Department of Obstetrics and Gynecology, Kyorin University School of Medicine

キーワード :

【緒言】
胎便性腹膜炎とは,胎生期に消化管の血行障害や閉塞などの原因により腸管穿孔を起こし,胎便が腹腔内に漏出した結果生じる無菌性腹膜炎である.発症頻度は35000分娩に1例であり,その病型はLorimerらによると,腹腔内に胎便が漏出し始めてから早期に反応性に腹水が貯留し石灰化を認めるgeneralized type(汎発型),腹水貯留後まもなく穿孔部が閉鎖されずに石灰化を伴う嚢胞を形成するcystic type(嚢胞型),そして穿孔後長時間が経過し穿孔部位が線維性癒着により閉鎖されるfibroadhesive type(線維性癒着型)に分類される.胎便性腹膜炎にさらに胎児水腫を合併する頻度は約10%に満たない程度であるが,その致死率は約60%と報告されており,胎児水腫を合併した場合は予後不良といえる.今回我々は,汎発型から短期間で嚢胞型に移行し胎児水腫を合併するも,児を救命し得た1例を経験した.本症例のように病型の変化や重篤な合併症の発見には頻回の観察が有用であり,超音波断層法は最も有用であると思われたので報告する.
【症例】
28歳,0経妊0経産.既往歴・家族歴に特記すべきものなし.他院にて施行された妊娠28週までの超音波断層法では,異常は指摘されていない.妊娠30週5日に胎児腹水を認め,精査目的に当院へ紹介となった.
【超音波断層法所見】
当院初診時(妊娠30週5日):腹腔内にのみ液体貯留認め,その液体はやや高輝度であり,腸管の石灰像を認めた.発育は週数相当,羊水量は正常であり合併奇形は認めなかった.以上より胎便性腹膜炎汎発型と診断した.妊娠31週3日:腹水は減少し,腸管拡張像を認めたことから嚢胞型へ移行したと考えられた.妊娠32週3日:胎児水腫を認め,中大脳動脈最高血流速度は77.1cm/sで1.5MoM以上であり貧血が示唆された.
【入院後経過】
妊娠32週3日より入院管理とした.胎児心拍数陣痛図はreassuring fetal statusであったが,胎児水腫を認めていたため,ステロイドによる肺成熟を図ったのちにterminationの方針とした.妊娠32週5日選択的帝王切開術を施行.出生時体重2338g,Apgar score 1分値4点,5分値8点,臍帯動脈血pH7.251,全身性に著明な浮腫を認めた.出生直後のHb 10.8 g/dl,TP 4.7g/dl,Alb 2.1g/dl,腹部X線上free air(+),腹部膨満が徐々に増強してきたことから,同日緊急ドレナージ術を施行.胎便が混入した腹水が認められた.胎便排出が持続することから,二日後に再開腹手術施行となった.腸管穿孔を認めるも癒着強固であり穿孔部の位置は同定できず,癒着剥離も困難なことから腸〓造切術を施行した.その後,状態は安定し,生後6ヶ月を目処として根治術を予定している.
【考察】
胎便性腹膜炎はその経過が発症後の時期に応じて種々の形態学的所見を呈し,急激な変化を辿ることがある.超音波断層法はその形態学的変化が把握可能であるという点で,この疾患における超音波断層法の有用性は高い.超音波断層法は他の画像検査と異なり,簡便性・非侵襲性の点で優れており,経時的な変化の観察が診断に重要である疾患が疑われる場合は,非常に有用な検査である.