Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

ポスター
産婦人科:症例報告1 産科異常・腫瘍

(S514)

無症候性周産期心筋症の2例

Two Cases of Asymptomatic Peripartum Cardiomyopathy

小口 秀紀, 宮﨑 のどか, 近藤 真哉, 伊尾 紳吾, 大塚 祐基, 古株 哲也, 邨瀬 智彦, 長谷川 育子, 原田 統子, 岸上 靖幸

Hidenori OGUCHI, Nodoka MIYAZAKI, Shinya KONDO, Shingo IO, Yuki OTSUKA, Tetsuya KOKABU, Tomohiko MURASE, Ikuko HASEGAWA, Toko HARATA, Yasuyuki KISHIGAMI

トヨタ記念病院周産期母子医療センター 産科

Department of Obstetrics, Perinatal Medical Center, Toyota Memorial Hospital

キーワード :

【緒言】
周産期心筋症(PPCM)は,明らかな心疾患の既往のない健康な女性が妊娠最終月から分娩後5ヵ月までに発症する拡張型心筋症の一亜型である1,2).PPCMは一般的に比較的稀な疾患であると考えられているが,発症した母体の致死率は6から23%であり,早期診断,適切な治療が非常に重要な疾患である.PPCMの診断には心臓超音波検査(UCG)が最も有用であり,左室駆出率の低下,左房・左室の拡大など左心機能障害の所見が認められる.PPCMの危険因子としては年齢,多産婦,妊娠高血圧症候群(PIH),多胎妊娠,長期の子宮収縮抑制剤使用,黒色人種などが知られている1,2).しかし,PPCMの発症に関わる要因や機序は未だ明らかではなく,発症の予測に関しても有効な方法は検討されていない.当院ではPPCMの危険因子を有する妊産婦にUCGによるPPCMのスクリーニング検査を施行してきた.今回我々はUCG所見で左心機能障害を認めたが,早期介入と慎重な管理の下,無症候で軽快した症例を2例経験したので報告する.
【症例1】
31歳,未経妊.妊娠29週5日より切迫早産,妊娠高血圧腎症の診断で,近医に入院し,子宮収縮抑制剤と降圧剤が投与されていた.蛋白尿は増加傾向で1日尿蛋白は7gを超え,33週0日に当院へ緊急母体搬送となった.重症妊娠高血圧腎症の診断でTerminationの方針とし,子宮収縮抑制剤を中止したところ陣痛が発来し,33週1日に経腟分娩となった.妊娠高血圧腎症であり,産褥4日目にスクリーニング目的に施行したUCGで,左室駆出分画(LVEF)は45.6%と左室収縮機能障害を認めた.呼吸困難感や胸痛等の自覚症状は認めなかった.利尿剤を投与し,産褥6日目に退院となった.産褥1ヵ月目のUCGでLVEFは46.7%とやや低値であったが,自覚症状は認めなかった.産褥2ヵ月目に利尿剤は中止し,産褥4ヵ月目にEFは59.3%と正常化した.
【症例2】
37歳,未経妊.妊娠28週頃より下腿浮腫を指摘されていた.妊娠39週0日より前医にて分娩誘発目的に入院となったが,血圧が158/84 mmHgと上昇し,当院へ緊急母体搬送となった.来院時の尿蛋白は±であり,軽症妊娠高血圧の診断で39週1日より分娩誘発を開始した.同日施行したPPCMのスクリーニング目的のUCGではLVEFは52.9%であったが,拡張早期僧帽弁血流速度/僧帽弁輪速度比(E/E’)は17.96と左室拡張機能障害を認めた.呼吸困難や胸痛等の自覚症状は認めなかったため,慎重に経過観察していた.その後陣痛が発来し,39週3日に経腟分娩となった.産褥3日目のUCGでは左室拡張機能障害の悪化(E/E’: 19.75)に加えて,左室収縮機能障害(LVEF: 41.9%)が出現したが自覚症状はなく,産褥5日目に退院し,外来経過観察とした.産褥14日目にはLVEFは43.3%,E/E’は10.22と改善傾向を示し,産褥1ヵ月目でLVEFは68.0%,E/E’は7.52と正常化した.
【結論】
PPCMは致死率の高い疾患ではあるが,本症例のように無症候性で経過することもある.その臨床的意義に関してはさらなる検討が必要ではあるが,PPCMを早期診断・治療し,重症化を防ぐために,PPCMの危険因子を有する妊産婦を抽出し,UCGを用いてスクリーニング検査を行うことが重要である.
【参考文献】
1)Elkayam U,Akhter MW,Singh H,et al: Pregnancy-associated cardiomyopathy clinical characteristics and a comparison between early and late presentation. Circulation 111:2050-2055,2005
2)Sliwa K,Fett J,Elkayam U: Peripartum cardiomyopathy. Lancet 368:687-693,2006