Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

ポスター
産婦人科:その他

(S513)

当科における術前深部静脈血栓症の発生頻度と下肢超音波検査の有用性についての検討

A study on the usefulness of ultrasound and the incidence of deep venous thrombosis in our hospital before surgery.

椎名 昌美1, 井上 泰英1, 保田 知生2, 祖川 裕美3, 山本 嘉一郎1

Masami SHIINA1, Yasuhide INOUE1, Chikao YASUDA2, Hiromi SOGAWA3, Kaichiro YAMAMOTO1

1近畿大学医学部堺病院産婦人科, 2近畿大学医学部付属病院外科, 3近畿大学医学部堺病院臨床検査室

1Obstetrics&Gynecology, Kinki University Sakai Hospital, 2Surgery, Kinki University Hospital, 3Clinical inspecting room, Kinki University Sakai Hospital

キーワード :

【目的】
産婦人科周術期の静脈血栓塞栓症(VTE)の頻度は比較的高く,本邦では比較的早くから血栓予防対策が取り入れられている.当院でも婦人科疾患に対し,近大式スコア型DVT/PEリスク評価表を用いてリスク評価を行い,下肢超音波検査を用いて術前深部静脈血栓症(DVT)の有無を診断し,周術期血栓予防対策を行っている.今回,当科におけるDVTおよび周術期肺血栓塞栓症(PTE)の発生状況を確認し,術前評価方法および予防対策法についての検討を行った.
【対象】
2009年1月〜2010年8月までの20ヶ月間に当科にて手術を行った193例を対象に検討を行った.下肢超音波検査における超音波装置はTOSHIBA Xarioを用い,撮像条件は中心周波数7.5MHz,リニア電子走査プローブを使用,体位は仰臥位軽度開脚位と座位でDoppler scanningを用いて行った.
【方法】
婦人科術前患者に対し,近大式スコア型DVT/PEリスク評価表を用いた評価を行い,Grade2の付加リスクありと判定した症例およびGrade3(高リスク)以上の症例に対し下肢超音波検査を行った.同時にD-dimerを測定し,検討を行った.Grade判定の結果,Grade 1,2は術中術後弾性ストッキング+運動療法,Grade 3は術中術後弾性ストッキング+術後より完全自立歩行までヘパリンカルシウムまたはヘパリンナトリウム使用,Grade 4は術中術後弾性ストッキング+術後未分画ヘパリンナトリウム5-7日間使用,の予防処置を行った.なお,Grade 4のうち,術前血栓症症例は入院期間中の弾性ストッキング装着と術前抗凝固療法と術後早期の抗凝固療法の開始をおこない,間欠的空気圧迫法の使用は禁忌とした.
【結果】
2009年1-12月における全手術症例は120例で,そのうち悪性腫瘍は33例であった.近大式スコア型DVT/PEリスク評価表におけるGrade3は34例(28.3%),Grade4は7例(5.8%)で,下肢超音波検査を行った46例(38.3%)において DVT症例は11例(全症例中9.2%)であった.なお,DVT症例はすべて悪性腫瘍であった(悪性症例中 33.3%).また,D-dimer基準値以上は14例で,うちDVTを認めたのは測定症例中6例(42.9%)であった.術後2例でPTEを認めた(1.7%).2010年1-8月における全手術症例は73例,悪性腫瘍は16例であった.Grade3は23例(31.5%),Grade4は6例(8.2%)で,33例(45.2%)に下肢超音波検査をおこなっており,DVT症例は7例(全症例中9.6%)であった.DVT症例のうち悪性腫瘍は4例であった(悪性症例中25.0%).D-dimer基準値以上は14例で,うちDVTは5例(35.7%)であった.術前3例においてPTEを認めた(4.1%).
【結論】
婦人科疾患における術後PTE発症率は0.8%と報告されているにもかかわらず,当院における術後PTE発生頻度は1.7%,術前PTEは4.1%と高率であった.近年本邦での肺血栓塞栓症の増加が指摘されており,周術期のVTE予防の重要性は益々認識されつつある.下肢超音波検査におけるDVT発生頻度も9.2%,9.6%と高率であったことから,リスク評価表を併用した下肢超音波検査は,高リスク群を抽出するために非常に有用であり,周術期VTE評価と予防策の策定に有用であると考えられた.