Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

ポスター
血管:症例報告 脈管

(S498)

Venous aneurysmの超音波所見

US findings of venous aneurysm

紺野 啓1, 藤井 康友1, 鯉渕 晴美1, 松永 宏明1, 倉井 順子2, 荻原 友美菜2, 谷口 信行1

Kei KONNO1, Yasutomo FUJII1, Harumi KOIBUCHI1, Hiroaki MATSUNAGA1, Junko KURAI2, Yumina OGIHARA2, Nobuyuki TANIGUCHI1

1自治医科大学医学部臨床検査医学, 2自治医科大学附属病院臨床検査部

1Department of Clinical Laboratory Medicine, Jichi Medical University School of Medicine, 2Clinical Laboratory, Jichi Medical University Hospital

キーワード :

【はじめに】
venous aneurysmは静脈の延長・蛇行を伴わない限局性の静脈拡張であり,下肢静脈瘤としてよく知られるvaricose vein(静脈瘤)とは異なるまれな疾患である.本症にはvaricose vein(静脈瘤)と区別して静脈性血管瘤あるいは静脈脈瘤などの訳が当てられることが多い.本症はカラードプラで発見されることが多いとされるが,詳細な超音波(以下US)像に関しての報告は必ずしも多くない.我々は最近,出現部位のそれぞれ異なる3例を経験し,興味深いUS像も得られたため,若干の考察を含め報告する.
【症例】
症例1:64歳,男性.肺癌術後の経過観察中,右胸鎖乳突筋前方に拍動性を伴う腫瘤性病変の出現を認めたため,精査目的にUSを施行した.US上,同部の皮下には外頸静脈を認めたが,この一部,静脈弁を中心とする部位全体に紡錘状の拡張を認めた.拡張部はプローブによる圧迫で容易に閉塞するため,皮膚表面に大量のカップリングゼリーを塗布し,プローブによる圧迫の影響を取り除いた状態で観察する必要があった.Bモードの長軸および短軸像では静脈弁のスムーズな開閉運動が観察され,カラーおよびパルスドプラでは拍動性の静脈血流が観察された.以上の所見よりvenous aneurysmと診断した.他に明らかな異常を認めなかった.
症例2:50歳,女性.両下肢静脈瘤(右下肢静脈瘤手術後)の経過観察中,左下肢静脈瘤の評価を目的にUSを施行した.左膝窩静脈-小伏在静脈合流部近傍の小伏在静脈に,外方に突出する13×6mm大の嚢状の拡張部を認め,venous aneurysmと診断した.カラードプラでは嚢状の拡張部と小伏在静脈との交通部にわずかな血流シグナルを認めるのみであった.血栓を疑わせる明らかな異常所見を認めなかった.
症例3:73歳,女性.左足底の悪性黒色腫の術後経過観察中,PET-CTにて左下腿背側に集積を認めたため,USを施行した.左下腿背側に長径1cm程度のごくわずかな皮膚の隆起を認め,この皮下に楕円形の嚢胞性病変を認めた.近傍にこの病変との連続性が疑われる索状の低エコー病変を認めたため,皮膚表面に大量のカップリングゼリーを塗布し,プローブによる圧迫の影響を取り除いた状態で観察したところ,両者の交通が明らかとなり,さらに索状病変内で周期的な開閉運動を示す1対の弁構造が明らかとなった.カラードプラでは弁内を通過する血流のカラーシグナルが観察可能であった.以上の所見より浅部静脈の静脈弁部に形成されたvenous aneurysmと診断した.この部分の静脈および瘤内にはもやもやエコーが観察されたが,カラードプラのon/offに伴う動きの変化より血栓は否定された.
【考察】
venous aneurysmの出現部位については中枢から末梢まで様々な報告があるが,自験例でも3例全てで出現部位が異なっており,その多彩さが裏付けられた.本症の成因は未確立だが,静脈の閉塞・狭窄,外傷,炎症,変成のほか,先天的な静脈壁の脆弱性などが挙げられている.自験例3例中2例はvenous aneurysm以外に明らかな異常を認めなかったが,venous aneurysm自体が静脈弁周囲に形成されており,本症の成因のひとつとして挙げられている先天的な静脈壁の脆弱性の関与を疑わせる点で興味深いと考えられた.体表直下に存在した2例では,通常の観察では十分な評価は困難であり,大量のカップリングゼリーを使用し,プローブによる圧迫の影響を取り除いた状態ではじめて詳細な観察が可能であった.本症の可能性が疑われる浅部の病変では,こうした描出の工夫が重要と考える.