Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

ポスター
循環器:症例報告5 先天性心疾患

(S486)

肺動脈瘤を合併した左側心膜欠損症:心エコー図所見を中心とした症例報告

Congenital absence of left pericardium complicated with aneurysm of pulmonary artery: A case report focusing on echocardiographic findings

小島 義裕1, 福田 信夫1, 福田 大和1, 森下 智文1, 田村 禎通1, 横井 靖世2, 山本 祐介2

Yoshihiro KOJIMA1, Nobuo FUKUDA1, Yomato FUKUDA1, Satofumi MORISHITA1, Yoshiyuki TAMURA1, Yasuyo YOKOI2, Yuusuke YAMAMOTO2

1国立病院機構 善通寺病院臨床研究部, 2国立病院機構 善通寺病院臨床検査科

1Department of Clinical Research, National Hospital Organization Zentsuji Hospital, 2Department of Clinical Laboratory, National Hospital Organization Zentsuji Hospital

キーワード :

【症例】
82歳,女性.近医において高血圧症と高脂血症で通院治療中に胸部X線検査で左第2弓の突出を指摘され,精査目的にて当科に紹介された.自覚症状は特に認めなかった.脈拍50 / 分・不整,血圧 154 / 60 mmHgで,胸部聴診にて胸骨左縁第3〜4肋間でLevine Ⅱ度の駆出性収縮期雑音を認めたが,肺野にラ音は聴取せず,頸静脈怒張,肝腫大,下腿浮腫はいずれも認めなかった.
【胸部X線と心電図所見】
胸部X線写真ではCTR64%と心陰影の拡大を認め,左第2弓の著明な突出を認めた.心電図は正常洞調律,不完全右脚ブロックで,V4-6において深いS波を認め,上室性期外収縮が多発していた.
【胸部CT所見】
胸部CT検査では肺動脈本幹は径55mm強と著明に拡大し,また心臓全体が時計回りに回転している所見を認めた.下行大動脈は蛇行していたが,明らかな心血管奇形は指摘できなかった.
【心エコー図所見】
心エコー図では,傍胸骨短軸像において肺動脈は主肺動脈から左右肺動脈への分岐部付近まで約55mmと瘤状に著明な拡大を認めた.また,左側臥位の傍胸骨長軸像において心尖部は拡張期に左下方へ著明に下垂し,収縮期に跳ね上がるような過大な前方運動を認め,Mモード法において心室中隔は奇異性運動,左室後壁は過大運動を示した.右側臥位に体位変換すると,心尖部は正常位置に回復し,心室中隔の奇異性運動もほぼ消失した.なお,左室の肥大や拡大はなく,左室収縮能は全体として正常で,有意な弁逆流は認めず,また心内短絡を示唆する所見は認めなかった.以上の心エコー図所見より左側心膜完全欠損を疑い,MRI検査を施行した.
【胸部MRI所見】
MRI検査では肺動脈主幹部は60mmと著明に拡張していた.心臓は全体に左背側に偏位してみられ,心尖部が左横隔膜肋骨角に落ち込んでいる所見を認めた.心膜は左室心尖部から背側にかけては同定できず,左側心膜完全欠損と診断された.
【考察】
本例は画像診断上,主肺動脈に限局した瘤状の拡張で,肺高血圧,肺動脈狭窄,先天性短絡疾患,血管炎などの原因疾患がないことから,特発性の肺動脈瘤と考えられた.肺動脈瘤はきわめて稀で,剖検10万例中8例という報告はあるが,系統的報告はほとんどない.本症の予後は,肺高血圧,先天性短絡疾患,結合織異常を伴うものは解離や破裂の高リスクとされるが,これらの異常を伴わないlow pressure aneurysmは低リスクとされている.本例は低リスク,無症状,高齢であることから経過観察の方針とした.他方,心膜欠損は胎生期における心膜の発達異常によって発症し,1万人に1件程度の頻度で,30%は他の先天異常を合併し,左側の部分欠損が多い.本例は特徴的心エコー図所見(左側臥位における心尖部の左下方への下垂と心室中隔の奇異性運動,右側臥位への体位変換によるこれらの所見の改善)およびMRI所見より左側完全欠損と診断した.完全欠損は部分欠損にみられるような心臓の陥頓や冠動脈の圧迫などは起こらず,予後良好で治療不要とされている.肺動脈瘤と心膜欠損の合併は調査範囲内では国内外で報告例がない.発生学的に心膜は胎生2週頃,肺動脈は胎生1ヶ月頃に形成され,時期的に一致しないことから,両疾患は偶然の合併の可能性が高いと考えられた.肺動脈瘤と心膜欠損を合併する例はきわめて稀であり,心エコー図所見を中心に考察を加えて報告する.