Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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cover

2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

ポスター
循環器:症例報告4 心筋症・心不全

(S485)

心不全後に心肥大をきたした一例

Case report: left ventricular hypertrophy after controlled heart failure

浅川 雅子1, 杉下 和郎1, 村岡 洋典1, 碓井 伸一1, 石谷 晴信2, 小野寺 一義2, 安喰 恒輔1, 高橋 利之1

Masako ASAKAWA1, Kazuro SUGISHITA1, Hironori MURAOKA1, Shinichi USUI1, Harunobu ISHITANI2, Kazuyoshi ONODERA2, Kohsuke AJIKI1, Toshiyuki TAKAHASHI1

1JR東京総合病院循環器内科, 2JR東京総合病院臨床検査科

1Department of Cardiology, JR Tokyo General Hospital, 2Clinical labolatory, JR Tokyo General Hospital

キーワード :

【症例】
63歳男性.
【主訴】
全身浮腫,腹部膨満.
【既往歴】
高血圧を指摘されたことがあるが放置
【現病歴】
前述主訴のため前医受診し,胸腹水を指摘されて,精査目的に当院紹介.
【初診時身体所見】
身長165cm,体重70.8kg,全身浮腫,血圧152/90mmHg,心拍数 108/分
【検査所見】
心電図上は洞調律,陰性Tを伴ういわゆる左室肥大所見を呈し,胸部レントゲン上はCTR70%以上,肺うっ血・胸水著明であった.血中BNP濃度2374 pg/ml.心不全を疑い,心エコー施行.Dd64mm,Ds58mm,IVS10/PW9mm,EF15%と左室の拡大と収縮低下を認めた.
【入院後経過】
急性心不全治療を施行し,安定したところで心カテーテル検査を施行した.冠動脈有意狭窄を認めず,心筋生検では部分的に心筋の陳旧性梗塞と線維化を認めた.カルベジロール,スピロノラクトン,イミダプリル内服にて,入院からヶ月後の退院時には血圧100-120/70mmHgで安定し,CTR55%,体重47kgと減少したが,心エコー上はDd66mm,Ds57mmと明らかな改善は認めず.外来では徐々に血圧が上昇し,それに伴う投薬増量にも抵抗性で,時に180/100mmHgとなった.退院から10ヵ月後に定期フォローのために心エコーを施行したところ,Dd51mm,Ds39mm,EF47%,IVS12/PW12mm と左室拡大とEFは改善したが,壁肥厚傾向が出現,左室重量係数は入院時148g/m2から152g/m2と増加していた.退院から1年8ヶ月後にはDd52mm,Ds36mm,EF58%,IVS12/PW12 mmと壁運動のさらなる改善を認めたが,壁肥厚も持続していた.
【考察】
本症例は,左室の拡大および壁運動低下が改善した時点で,相対的壁肥厚分類における求心性左室肥大を呈するようになった.心肥大のメカニズムについては解明されていない点が多く残されているが,ラットの高血圧モデルにおいては,高血圧に暴露された左室は当初拡大し,約2週間で求心性心肥大により代償されることが報告されている.また塩分感受性のない非高血圧ラットでも心筋細胞自体にわずかな心筋肥大と膠原線維増大を認めることが報告されている.本症例のうっ血性心不全は,組織学的には心筋細胞肥大などの組織学的高血圧性変化を認めず,最初から高血圧性心不全であったとは診断しがたい.したがって,収縮機能障害を呈した病的心筋組織が,収縮機能回復後に,高血圧暴露により代償的に肥大しうることを示している可能性がある.当院での他の左室収縮機能障害に起因する心不全症例においては,収縮機能改善後に,心エコー上左室肥大が出現した症例はほとんどなく,本症例は,稀な経過を心エコーでとらえられた一例であると考える.
【結語】
病的心筋が部分的回復後に,高血圧により肥厚しうることを示唆する所見を心エコーでとらえたので報告した.