Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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cover

2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

ポスター
循環器:症例報告3 たこつぼ心筋症

(S480)

SLEの初発症状として心筋炎を呈し,診断に難渋した重症心不全の一例

a case of severe heart failure with acute myocarditis as an initial manifestation of SLE

小板橋 俊美, 猪又 孝元, 姜 峰林, 岩本 美和, 前川 恵美, 品川 弥人, 今木 隆太, 和泉 徹

Toshimi KOITABASHI, Takayuki INOMATA, Fenglin JIANG, Miwa IWAMOTO, Emi MAEKAWA, Hiahito SHINAGAWA, Ryuta IMAKI, Tohru IZUMI

北里大学医学部循環器内科学

Cardio-Angiology, Kitasato University

キーワード :

症例は41歳女性.2008年度の健康診断では異常を指摘されていなかった.2010年7月頃より眼瞼の浮腫を自覚,9月には顔面浮腫となった.また,同時期から労作時息切れが出現し,9月7日に起座呼吸となり心不全の診断で近医に緊急入院となった.心不全治療にかかわらず病態は悪化し,9日に当院に転送された.心電図は洞性頻脈と低電位差を呈していた.心エコー図では,心房心室腔の拡大は認めず,著明な両心室のびまん性の壁運動低下と壁肥厚,心膜液の貯留を認めた.前医では左室駆出率が30%であったが,来院時には24%と低下していた.トロポニンIは2.2 ng/mlと軽度高値であったが,CKを含む他の心筋逸脱酵素の上昇は認めなかった.血清クレアチニン値及び尿素窒素値は,それぞれ8.2 mg/dl,53 mg/dlと腎機能障害を認めた.急激な臨床経過と心エコー図所見から心筋炎が疑われたが,全経過を通して心筋逸脱酵素の上昇は認められなかった.入院時に施行した心内膜心筋生検組織では,心筋障害と間質の線維化及び少数のリンパ球様の細胞浸潤を認めたものの,明らかな炎症所見や沈着物を認めず,心エコー図以外で積極的に心筋炎を疑う所見は得られなかった.一方,腎機能障害の原因精査により低補体血症が明らかとなり,抗核抗体の高値及び抗ds-DNA抗体陽性から,SLEの診断に至った.ステロイド投与を開始後,心収縮能は速やかに改善し,SLEに合併した心筋炎,すなわちループス心筋炎であったと考えられた.後日施行した心内膜心筋生検組織の免疫染色では組織間質にテネイシンCの強い発現を認め,心筋での組織炎症が証明された.対照的に,通常のウイルス性心筋炎などで観察される細胞浸潤や細胞集簇は認められず,液性免疫の病態への強い関与がうかがわれた.ループス心筋炎では高率に壁運動異常および駆出率低下,心膜液を伴うが,62%でCKの上昇を認めないと報告されている.また,ループス心筋炎の73%が初発症状の一つとして出現し,時に原因不明の難治性心不全として治療に難渋する.一方で,診断がつけば確立されたステロイド治療にて根治療法が可能である.原因不明の壁運動低下と心膜液を伴う難治性心不全症例に遭遇した時には,本症例のような通常の検査では診断し得ない特殊病態下での心筋炎も考慮し,原因検索に努めるべきである.