Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

ポスター
循環器:症例報告2 心筋症

(S478)

収縮が保たれたミトコンドリア心筋症による急性心不全の一例

A case of acute heart failure with preserved ejection fraction (HFPEF) caused by mitochondrial cardiomyopathy

佐々木 賀津乃1, 竹中 克1, 宇野 漢成2, 中尾 倫子3, 海老原 文1, 矢冨 裕1

Kazuno SASAKI1, Katsu TAKENAKA1, Kansei UNO2, Tomoko NAKAO3, Aya EBIHARA1, Yutaka YATOMI1

1東京大学医学部附属病院検査部, 2東京大学医学部付属病院コンピュータ画像診断学/予防医学講座, 3東京大学医学部付属病院循環器内科

1Department of Clinical Laboratory, The University of Tokyo Hospital, 2Department of Computational Diagnostic Radiology and Preventive Medicine, The University of Tokyo Hospital, 3Department of  Cardiovascular Medicine, The University of Tokyo Hospital

キーワード :

【症例提示】
61歳女性.経過18年のインスリン依存性糖尿病で当院糖代謝内科に通院治療中.心疾患の指摘はなかったが,2006年12月頃から浮腫が出現し,以降徐々に増悪し,翌年4月20日に呼吸困難も出現したため救急外来を受診した.BP168/86mmHg,HR67bpmであった.心電図は洞調律で,非特異的ST-T変化を認めた.胸部レ線で肺うっ血と胸水を認め,血漿BNP500pg/mlであったため心不全と診断され,入院となった.糖尿病・感音性難聴・知力障害疑いなどからミトコンドリア異常が疑われ,末梢血リンパ球においてミトコンドリア3243番遺伝子変異を認めMIDD(maternally inherited diabetes mellitus and deafness)と診断された.
【心エコー結果】
計測値を表に示す.左室拡張末期径,収縮末期径と駆出分画(EF)は心不全急性期も症状軽快後も変化率が10%未満で,ほぼ不変であった.軽度の僧帽弁逆流もほぼ同程度であった.急性期に比べ,心不全軽快後ではE波とA波が減高し,二次性肺高血圧を示したRV-RA圧較差も軽減した.組織ドプラ法で計測した僧帽弁輪運動速度s’が心不全軽快後に著明に増高したのに比べ,拡張早期のe’波の増高はわずかであった.E/e’も改善したが,E波の減高による寄与が主であった.また,lateralのE/e’が治療後正常値を呈していたのに対し,septalのE/e’は治療後も高値にとどまり,本症例においてはlateralの組織ドプラ測定値がより実態を反映したと考えられた.
【考察】
MIDDは,ミトコンドリアのDNA異常によって,心筋細胞のATP産生が障害され心不全に陥ると考えられる.本症例は急性期に心不全症状を認め,心エコーで左室拡大がなく,EFも保たれていたheart failure with preserved ejection fraction (HFPEF)の典型的な症例である.症状が軽快した後に左房圧の指標であるE波とE/e’が低下したのは除水による治療効果を反映していると考えられた.一般的に病気の心臓では,e’が前負荷の影響を受けにくいとされているが,本症例は治療による前負荷軽減と共に,e’の増加がみられ,これは治療による左室弛緩の改善と解釈される.また,治療前後のEFが不変であったのに対し,s’波は明らかに症状軽快後に増大した.これは組織ドプラのs’波が長軸方向の収縮指標としてEFよりも鋭敏であることを示唆している.