Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

ポスター
循環器:弁・心機能

(S471)

僧帽弁輪石灰化(MAC)による僧帽弁狭窄評価の問題点

Problems for Severity Assessment of Mitral Valve Stenosis with Annular Calcification

大平 佳美1, 岩瀬 正嗣2, 杉本 恵子2, 杉本 邦彦1, 高橋 礼子1, 松浦 秀哲1, 加藤 歩1, 吉水 はるな1, 石川 隆志1, 石井 潤一1

Yoshimi OHIRA1, Masatsugu IWASE2, Keiko SUGIMOTO2, Kunihiko SUGIMOTO1, Ayako TAKAHASHI1, Hideaki MATSUURA1, Ayumi KATOU1, Haruna YOSHIMIZU1, Takashi ISHIKAWA1, Junichi ISHII1

1藤田保健衛生大学病院臨床検査部, 2藤田保健衛生大学医療科学部

1Clinical Laboratory, Fujita Health University Hospital, 2Health Sciences, Fujita Health University School

キーワード :

【はじめに】
僧帽弁狭窄症(MS)は従来,リウマチ性に起因しているものがほとんどであったが,高齢化という時代背景に伴い僧帽弁輪石灰化(MAC)によるものが増加しつつある.今回,MACを伴うMS症例における重症度評価に難渋した2症例を経験したので報告する.
【症例1】
70代女性,意識消失発作を繰り返し精査目的にて当院入院.入院中に心電図上,完全房室ブロックを認めその後心停止を起こし,当院CCUにて体外式ペースメーカが挿入された.翌日の心エコー図検査(UCG)所見ではLVH及び僧帽弁後尖にMACを認め僧帽弁口は狭小化していた.MS 《mean PG8mmHg,プラニメトリ法による弁口面積(MVA)1.5cm2,PHT78msec》で検査時心拍数(HR) 70bpmであった.後日ペースメーカ植込術が施行され,術後のUCGはHR80bpm,MS《mean PG9mmHg,MVA1.5cm2,PHT61msec》であった.その後退院するも,一ヶ月半後に下肢浮腫,胸水貯留を認め再入院し,翌日のUCGではHR60bpm,MS《mean PG2mmHg,MVA1.4cm2,PHT153msec》であった.4日後のUCGはHR60bpm,MS《mean PG3mmHg,MVA1.2cm2,PHT88msec》で経過良好にて退院となった.約半年後内分泌内科に入院された際は心不全症状なく,UCGはHR60bpm,MS《mean PG5mmHg,MVA1.0cm2,PHT165msec》であった.
【症例2】
60代女性,発作性心房細動にて当院循環器内科受診しており,外来UCGでは中隔に肥厚が目立つ非対称性肥大があり,左室流出路に24mmHgの圧較差を認め,閉塞性肥大型心筋症を疑う所見であった.また,MACを伴うMS《maen PG5mmHg》を認めた.胸痛,動悸発作頻度が増加し外来を受診した際,心電図はHR109bpm,心房粗動であり,UCGはMS《mean PG15mmHg,MVA1.0cm2,PHT119msec》流出路狭窄(-)であった.外来にて様子観察となるが,2週間後心拡大,胸水貯留を認め入院となり,翌日のUCGではHR70bpm,MS《mean PG7mmHg,MVA1.1cm2,PHT 182msec》流出路狭窄(-)であった.後日,僧帽弁評価のための経食道UCGではHR64bpm,MS《mean PG4mmHg,PHT238msec》.その翌日の経胸壁UCGではHR70bpm,MS《mean PG3mmHg,MVA1.0cm2,PHT 100msec》と僧帽弁のmean PGは前回より改善.術前の冠動脈造影にてLMT90%狭窄を指摘され,経過観察中に胸痛が出現しIABPを挿入した翌日のUCGは,HR58bpm,MS《mean PG4mmHg,MVA0.9cm2,PHT 244msec》流出路狭窄を認めた.その後CABG,MVR,MAZEを行い,摘出した僧帽弁の病理組織検査では高度な硝子化変性,石灰化,肉芽形成性変性を見る肥厚器質化した弁尖であった.
【考察】
MACによる僧帽弁狭窄の評価は,プラニメトリ法では高度石灰化によりトレースが不正確になる点,PHT法ではリウマチ性に対する経験的な関数でありMACによる僧帽弁狭窄評価の妥当性が報告されていないことから,病態の把握には左房左室間平均圧較差が有用であるといわれている.しかし,今回報告した2症例の平均圧較差は検査毎に変動し,平均圧較差からの重症度評価にも問題点が存在することが考えられた.通常,狭窄評価は安静時に行われるが,病態によっては負荷に伴う頻脈によって顕在化する病態も指摘されており,頻脈になりMACによる僧帽弁開放制限がより顕著となり,左房左室間の平均圧較差が上昇して,より重篤な狭窄状態をきたしたと推測された.さらにドプラ法を用いている為,HR,血圧,前負荷の増減などの血行動態の影響を受けやすいことも考えられる.
【結語】
MACによるMS症例の場合,特にプラニメトリ法でのトレースが困難な症例における重症度評価には注意が必要であり,血行動態を考慮して判断する必要があると考えられた.