Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

一般口演
整形外科:運動器

(S458)

体外式超音波が診断の契機となった小児脊髄脂肪腫の1例

A case of spinal lipoma diagnosed by ultrasonography

谷口 真由美1, 畠 二郎2, 竹之内 陽子1, 中武 恵子1, 岩井 美喜1, 麓 由起子1, 小島 健次1, 今村 祐志2, 眞部 紀明2, 春間 賢3

Mayumi TANIGUCHI1, Jiro HATA2, Yoko TAKENOUCHI1, Keiko NAKATAKE1, Miki IWAI1, Yukiko FUMOTO1, Kenji KOJIMA1, Hiroshi IMAMURA2, Noriaki MANABE2, Ken HARUMA3

1川崎医科大学附属病院中央検査部, 2川崎医科大学検査診断学(内視鏡・超音波), 3川崎医科大学消化管内科学

1Department of Clinical Laboratory, Kawasaki Medical School Hospital, 2Division of Endoscopy and Ultrasound ,Department of Clinical pathology and Laboratory Medicine, Kawasaki Medical School, 3Division of Gastroenterology,Department of Internal Medicine, Kawasaki Medical School

キーワード :

【はじめに】
脊髄脂肪腫は全脊髄腫瘍の約1%と非常にまれな腫瘍である.脊髄脂肪腫の主要な症候の一つである神経因性膀胱の所見を伴い,体外式超音波が診断の契機となった脊髄脂肪腫の1例を報告する.
【症例】
3歳,女児
【主訴】
排尿困難,便秘
【現病歴】
20XX年9月某日,上記を主訴に近医を受診.触診で下腹部に腫瘤を指摘され,卵巣腫瘍疑いで同日当院小児科に紹介受診となった.
【来院時現症】
身長89㎝,体重13㎏.四肢麻痺なし,下肢変形なし.腹部に腫瘤を触知し,腰部に軽度の陥凹を認めた.
【血液生化学検査および尿培養検査】
WBC は11790/μlと軽度高値,尿培養の結果Escherichia coliが1×105以上検出された.
【腹部超音波所見】
機種は東芝社製SSA-790A.プローブは3.75MHzコンベックス,6MHz,7MHz,8MHz,12MHzリニアプローブを用いた.下腹部に見られる腫瘤は拡張した膀胱であり,カラードプラ上尿管からの尿噴流が描出された.膀胱壁には肉柱形成も見られた.観察した範囲には狭窄病変は指摘できず,膀胱内の尿に明らかな混濁は見られなかった.神経因性膀胱の原因検索のため背部より脊髄を観察したところ,中心に空洞と思われる無エコー域が観察された.また仙骨背面に横径1.5㎝,長径3㎝程度の腫瘍があり,脊髄を左側から右側に圧排していた.腫瘤は輪郭平滑,境界明瞭.内部はほぼ均一な低エコーで,索状の高エコーが見られ,カラードプラ上内部に血流シグナルは検出されなかった.以上より超音波上,脊髄脂肪腫および脊髄空洞症が疑われた.
【CT】
仙骨レベルに脊髄脂肪腫が明瞭に描出され,腫瘤は脊髄左寄りに存在し,圧迫された硬膜嚢らしき構造物が右前(11時方向)に確認された.腫瘤の下端は左前仙骨孔から突出していた.また膀胱の著明な拡張も認めた.
【MRI】
硬膜嚢の最尾側で仙骨背側に皮下脂肪と一部連続の見られる脊髄脂肪腫あり.仙骨背側は欠損し,脊髄は牽引されており,係留脊髄の状態.脊髄脂肪腫内部に終糸と思われる索状構造あり.脊髄脂肪腫より頭側の脊髄内にはSTIR高信号の構造が見られ,脊髄空洞症が疑われた.以上より脊髄脂肪腫,脊髄係留症候群の術前診断で係留解除術,脂肪腫部分切除術が施行された.
【病理組織診断】
顕微鏡的には成熟脂肪織からなる組織で,壊死や分裂像,脂肪芽細胞などの所見はなく,良性の脂肪腫と診断された.
【術後経過】
術後経過は良好で,下肢運動機能異常も認めず,自尿あり.以後,当院小児科外来にて経過観察中であるが,排便排尿コントロールは困難であるも,膀胱造影では改善を認めている.
【まとめ】
脊髄脂肪腫による膀胱直腸障害は,症状出現後の手術による改善率が40%以下との報告があり,早期診断が重要となる.本症例は超音波上,拡張した膀胱に肉柱形成を伴っていたため神経因性膀胱が疑われ,脊髄の観察を試みたが,脊髄脂肪腫ならびにそれに合併しやすい脊髄空洞症に特徴的な所見を指摘することが可能であった.低侵襲かつ画像解像度も良好であり,腰仙椎レベルの脊椎椎弓の骨化が進んでいない乳幼児の仙尾部奇形の診断には超音波が有用とする報告も見られる.よって本症例のような病態を呈する場合,尿路系の異常検索のほか仙尾部奇形も考慮し,積極的に観察することも診断に有用と考えられた.