Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

一般口演
産婦人科:症例

(S438)

位相差トラッキング法による双胎間輸血症候群治療前後での胎児循環の評価

Demonstration of hemodynamic changes by phased tracking method after fetoscopic therapy of twin-to-twin transfusion syndrome

宮下 進1, 2, 小澤 克典2, 3, 佐藤 聡二郎1, 室月 淳1, 2, 長谷川 英之4, 5, 金井 浩4, 5

Susumu MIYASHITA1, 2, Katsusuke OZAWA2, 3, Soujirou SATOH1, Jun MUROTSUKI1, 2, Hideyuki HASEGAWA4, 5, Hiroshi KANAI4, 5

1宮城県立こども病院産科, 2東北大学大学院 医学系研究科先進発達医学講座 胎児医学分野, 3都立大塚病院産婦人科, 4東北大学大学院 医工学研究科医工学専攻, 5東北大学大学院 工学系研究科電子工学専攻

1Department of Maternal and Fetal Medicine, Miyagi Children’s Hospital, 2Department of Maternal and Fetal Medicine, Graduate School of Medicine, Tohoku University, 3Department of Obstetrics and Gynecology, Tokyou metropollitan Ohtsuka Hospital, 4Department of Biomedical Engineering, Graduate School of Biomedical Engineering, Tohoku University, 5Department of Electronic Engineering, Graduate School of Engineering, Tohoku University

キーワード :

【背景】
臨床用の超音波診断装置では,送信ビーム方向の距離分解能の理論値は1 mm程度であり,胎児血管径の計測のためには精度が不足する.パルス送受信で,任意の測定点からの反射波の伝搬遅延時間の変化を位相偏移をもとに決定すれば,計測点の運動速度を高精度に推定することが可能となり,これが位相差トラッキング法(phased tracking) の原理である.これを用いて血管壁上などに定めた計測点の微小な速度を継続して計測可能となる.得られた速度の時間積分により距離(位置変化)を得る.計測点を複数設定することで,血管径や血管壁厚を計測できる.理論的な速度の計測精度は 0.1 mm/sで積分値としての距離0.2 μm程度に相当し,精細な計測精度が得られる.
【目的】
位相差トラッキング法により胎児血管の微少な脈管径変動を計測し,双胎間輸血症候群(TTTS)の胎児治療前後での循環評価を行うこと.
【方法】
計測には中心送信周波数3.5MHzのコンベックス型探触子を用い,パルス繰返し周波数は4.5kHzとした.超音波診断装置(東芝SSA370A)からアナログ出力したDoppler信号をワークステーションに取込み解析を行った.計測点は,血管内腔の近位端と遠位端に設定し,ビーム方向のトラッキングにより横隔膜レベルでの胎児下行大動脈径の変化を観察した.1回あたり3心周期を計測し,それぞれ5-8回の計測の平均値を採用した.以下の症例において,胎児鏡下吻合血管凝固術(FLP)前と術後1日目に供血児,受血児それぞれに計測を行った.(症例1) 18週,Stage II,(症例2) 19週,Stage II
【成績】
供血児: 血管径変化幅: 症例1(30±4.3→57±12μm),症例2(98±12→115±7.8μm)と増加したが有意ではなかった.径変化率: 症例1(3.2±0.2→3.4±0.5%),症例2(3.9±0.9→6.5±0.46%)で症例2では有意に(p<0.05)増加した.受血児: 血管径変化幅: 症例1(13±2.5→45±4.0μm),症例2(66±4.2→200±13μm),径変化率: 症例1(1.4±0.27→3.4±0.34%),症例2(2.9±0.21→9.8±0.37%)といずれも有意に増加した(mean±SE).供血児と受血児の比較では,供血児で血管径変化幅,径変化率とも術前に有意に大きい値を示していた.また,受血児でFLP前後でのより大きな変化が観察された.
【考察】
胎児下行大動脈径の心周期にともなう変動は,血管内圧情報を反映すると考えられる.今回観察された結果からは,TTTSのFLP治療後では,術前と比較して供血児,受血児ともに体血圧が上昇し,その変動は受血児でより大きいことが示唆された.位相差トラッキング法は,TTTSの胎児治療前後における循環評価,特に血圧情報の評価が期待できる有用なモダリティである.