Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

一般口演
産婦人科:症例

(S437)

胎児期に発症した片側内頸動脈閉塞により脳萎縮を生じた一例

A case of fetal brain atrophy caused by obstraction of unilateral internal carotid artery

張 良実, 中井 祐一郎, 郭 翔志, 石田 剛, 潮田 至央, 前田 岳史, 中村 隆文, 下屋 浩一郎

Yang Sil CHANG, Yuichiro NAKAI, Shouji KAKU, Tsuyoshi ISHIDA, Norichika USHIODA, Takeshi MAEDA, Takafumi NAKAMURA, Koichiro SHIMOYA

川崎医科大学産婦人科

Department of Obstetrics and Gynecology, Kawasaki Medical School

キーワード :

【はじめに】
妊娠中の胎児脳血流障害については,一絨毛膜性双胎妊娠における一児死亡例におけるものが知られているものの,極めて稀なものであると考えられる.今回,我々は妊娠31週に片側側脳室の拡大を疑われて紹介された児において,妊娠経過中に発生したと考えられる片側内頸動脈系の血流障害を認めた症例を経験したので報告する.
【症例】
症例は,25歳の初産婦.既往歴には特記すべきものはない.妊娠初期検査には異常はなく,近医で妊娠管理されていた.妊娠26週のスクリーニング検査には異常を認めなかったが,30週の時点で左側脳室の軽度拡大を指摘されて,精査目的で紹介された.妊娠32週の当科初診時においては,左側頭蓋横径の短縮による正中エコーを挟んでの軽度の非対称性を認めたほか,超音波カラードプラ法による同側中大脳動脈と前大脳動脈の描出が不可能であった.一方,後大脳動脈は,両側ともに確認できた.この時点では,脳構造は比較保たれていると判断されたが,早期娩出による予後改善の可能性については確証もないことから待機的観察とした.一週間毎の超音波評価により,患側の側頭葉と前頭葉と考えられる領域を中心に構造が不明瞭化して行くのが観察された.胎児運動の観察では,四肢の動きに問題はなく,また患側を含めて眼球運動は確認できた.胎児呼吸様運動も認められ,かつperi-nasal flowにも異常は認められなかった.胎児発育は正常に推移してゆき,右側中大脳動脈血流や臍帯動脈,また下大静脈などの血流にも異常はなかった.更に,羊水量にも異常はなかったことから,待機を継続したところ,妊娠35週頃から左側の前大脳動脈のうち,内頸動脈分岐から正中エコーに向かう部分の血流が確認されるようになったが,正中から外側に向かう血流であり,右側内頸動脈系から前交通動脈を介する血流であると解された.また,妊娠36週より胎児心拍数図による評価も行ったが,reactive patternを示しており,明らかな一過性徐脈の出現などの異常もみなかった.また,variabilityにも異常は認めず,妊娠38週に自然陣痛発来し,同日3227gの男児をApgar score8/9点(1分/5分)で娩出した.分娩中の胎児心拍数図にも異常は見られなかった.児の反射は対称性に認められ,呼吸状態や吸綴にも問題はなかった.出生後のMRIでは,左側内頸動脈領域の萎縮が著明であり,特に中大脳動脈領域において著しかったほか,左内頸動脈の頭蓋内における急激な細径化が認められた.現在,児は通常の栄養管理下に経過観察をしており,向後密な観察により発達を評価していく予定である.
【考察】
本例では,前医における妊娠26週のスクリーニング検査に異常がなかったことや妊娠32週の当科初診時においても患側の脳構造が比較的保たれていたことから,更にはその後の観察により構造の不明瞭化が認められたことから,初期の発生には問題はなく,胎児発育過程において左内頸動脈血流に急激な事実上の閉塞が生じたと解するのが妥当であると考える.本症例の病態の本質である左内頸動脈の急激な細径化の原因は明らかではないが,上記の経過からは二次性の病変が疑われるところである.また,一般の胎児well beingの評価では異常を認めず,妊娠継続についても問題はなかったが,早期娩出の意義などについても議論をする必要があるかもしれない.