Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

一般口演
消化器:肝血管血流

(S418)

肝動脈-肝静脈短絡を伴う肝腫瘍の造影超音波所見

Liver tumor with marked arterio-venous shunt:contrast US findings.

坂本 夏美1, 2, 黒田 聖仁2, 大平 弘正1, 石田 秀明3

Natsumi SAKAMOTO1, 2, Masahito KURODA2, Hiromasa OHIRA1, Hideaki ISHIDA3

1福島県立医科大学消化器・リウマチ膠原病内科学講座, 2福島赤十字病院内科, 3秋田赤十字病院超音波センター

1Department of Gastroenterology and Rheumatology, Fukushima Medical University, 2Department of Internal Medicine, Fukushima Red cross Hospital, 3Center of Diagnostic Ultrasound, Akita Red Cross Hospital

キーワード :

良悪性に関わらず肝腫瘍に短絡路を伴うことがある.しかし,その多くは,a)カラードプラや造影超音波法で,腫瘍-周囲肝境界部にみられる微細短絡で,しかも,b)動脈-門脈(以下,A-P)短絡が主体を占める.今回我々は,発達した肝動脈-肝静脈(以下A-V)短絡を伴った肝腫瘍の2例を経験したので,その造影超音波所見を中心に報告する.
【使用診断装置】
(症例1)日立社製:Preirus.(症例2)東芝社製:Aplio XG, (中心周波数:3-4MHz).造影法の手順は,ソナゾイド(GE Health Care社)を用い,通常の,肝腫瘍の造影方法に準じた.
【症例1(60歳代男性)】
慢性C型肝炎,肝硬変の上に発生した肝細胞癌で入退院を繰り返していた.CTでS8ドーム部に約4cm大の多血性病変を認めTAE目的に入院.病変部は血流が早く十分な観察が出来ずTAEは行わなかった.超音波上,腫瘍は(壊死と思われる)中心部に無エコー域を伴い,その外側を(周囲肝組織よりわずかに)高エコー輝度の領域が囲む,といった構造を呈し,外側音響陰影と明瞭な後方エコー増強効果が認められた.さらに,右肝静脈が腫瘍に連なるように存在していた.病変の性状確認のため造影超音波施行.腫瘍は造影早期から実質部全体が濃染し,その“染まり”が右肝静脈に流入する,という動きを示した.同時に,右肝静脈周囲の肝実質が帯状に染まった.この造影パターン検査中持続した.肝細胞癌に伴う発達したA-V短絡と判断し,TAEではなくTAIを治療選択とした.現在経過観察中.
【症例2(70歳代女性)】
乳癌の術前検査の一環として施行した腹部超音波検査で肝S4に3X4cmの孤立性腫瘍検出.腫瘍は,内部の不均一なエコー輝度の領域を高エコーの縁取りが囲む,といった構造を呈し,外側音響陰影は無かったが,淡い後方エコー増強効果が認められた.なお中肝静脈が腫瘤に連なるように存在していた.病変の性状確認のため造影超音波施行.腫瘍は造影早期から綿花様の遅い染まりを示し血管腫と診断した.一方,造影早期から,腫瘍から染み出る様に,腫瘍-中肝静脈間の肝実質が帯状に染まり,その直後から中肝静脈内に造影剤の流入が確認できた.この帯状の染まりは(造影剤注入から)約40秒程度持続したが,その後は周囲肝とほぼ同等の染まりとなり,以後この均一性が持続した.現在経過観察中.
【まとめと考察】
腫瘍の進展に伴い周囲血管の圧迫や浸潤が生じ,短絡路が形成される.原則的には,肝内の3血管(動脈,門脈,肝静脈)間のあらゆる組み合わせの短絡(A-P短絡,A-V短絡,P-V短絡,V-V短絡,など)が想定可能であるが,A-P短絡が圧倒的に多いのは,その解剖学的位置関係(両者が併走している)による.そのため,臨床的には,今回のような,かなり大きな径のA-V短絡を伴なうことは比較的まれである.肝静脈は中枢部では陰圧高速であるため,発達したA-V短絡を有する場合,造影剤が腫瘍から肝静脈に高速で染み出す,という現象が見られる,と思われる.診断,さらに治療戦術決定のためにも,これらの所見の理解は重要と思われる.