Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

一般口演
消化器:肝血管血流

(S417)

心不全が原因と考えられた肝内門脈-静脈短絡例

Intrahepatic P-V shunt due to cardiac insufficiency

大山 葉子1, 石田 秀明3, 星野 孝男2, 紺野 純子1, 高橋 律子1, 三浦 百子1, 齋藤 千春1, 長沼 裕子4, 渡部 多佳子3

Yoko OHYAMA1, Hideaki ISHIDA3, Takao HOSHINO2, Junko KONNO1, Ritsuko TAKAHASHI1, Momoko MIURA1, Chiharu SAITO1, Hiroko NAGANUMA4, Takako WATANABE3

1秋田組合総合病院臨床検査科, 2秋田組合総合病院消化器科, 3秋田赤十字病院超音波センター, 4横手市立病院内科

1Department of Clinical Laboratry, Akita Kumiai General Hospital, 2Department of Gastroenterology, Akita General Hospital, 3Department of Diagnostic Ultrasound, Akita Red Cross Hospital, 4Department of Internal Medicine, Yokote City Hospital

キーワード :

【はじめに】
我々は,第82回日本超音波医学会総会で,65例の肝内門脈-静脈(P-V)短絡例を検討し,a)原因不明例が多数を占める事,b)肝辺縁(S3,S6,辺縁)が多い事,c)血流方向は常に,P→Vである事,d)羅患領域に萎縮や腫大を引き起こさない事などを報告した.今回あらたに心不全が原因と考えられる肝内P-V短絡を3例経験したので,これらの超音波像を中心に報告する.
【使用診断装置】
東芝社製:AplioXG,GE社製:LogiqE9.(ともに中心周波数:3-4MHz)
【使用超音波造影剤】
GE Health Care社:Sonazoid.なお,造影超音波検査法は通常の肝腫瘍造影法に順じ,推奨容量の半量を肘静脈から注入し,MI値0.2-0.3で10分まで観察した(症例2・3)
【症例1】
80歳代男性:心不全治療中.Bモード上,肝内に腫瘍なく実質パターンは正常.S1内に微細管状構造物あり.この部はカラードプラで門脈左枝-下大静脈間のP-V短絡と診断された.FFT波形は,その短絡部全体から(波動を伴う)肝静脈波形が得られた.肝内に他の短絡や血栓は認められなかった.
【症例2】
80歳代女性:過去に長期間の心不全羅患時期あり.スクリーンング目的の超音波検査で,S8深部にカラードプラで1cmの門脈右枝(P8)-右肝静脈間の短絡が認められた.
【症例3】
80歳代女性:幼少時から反復性鼻血などの症状あり.更に家系的にも多数に,鼻血,喀血(肺動脈-静脈短絡による),胃粘膜毛細血管拡張,などの所見があり,Hereditary hemorrhagic telangiectasis (HHT,Osler-Weber -Rendu disease)と診断されていた.最近息切れと胸部不快感あり.当院循環器科受診し高度の心不全と診断された.腹部超音波上,肝は全体に腫大し,肝内全域に肝動脈,肝静脈が拡張,カラードプラと造影超音波所見から,無数の肝内短絡(動脈ー門脈,動脈ー静脈,門脈ー静脈)形成を認めた.
【まとめと考察】
肝内門脈-静脈(P-V)短絡は日常の超音波検査で時折みられる所見で臨床的な意味が無い事が多い.また原因不明な事が多い.しかし,今回我々が提示した3例の様に,まれではあるがP-V短絡形成機序がうかがわれる場合がある.これらの3例の共通点として,比較的まれな箇所にP-V短絡が存在した事が上げられる.特にS1に存在するP-V短絡は以前発表した65例では全くみられなかった箇所であり,S1が下大静脈,そして右心系と密接に関連がある事を考えると,興味深い所見である.一方,HHT例では肝内全体に無数の多様な短絡がみられた.文献的には,HHTの肝では,まず末梢レベルでの血管内腔の拡張や動静脈短絡が生じ,これが次第に顕在化すると考えられている.つまり,画像診断で見られるマクロの所見である各種肝内血管の短絡は,末梢レベルの小短絡が発展したものと考えられている.しかし,HHT例の全例に肝内(マクロレベルの)血管短絡がみられるわけではなく,今回の症例の様に,心不全が短絡形成を加速させた可能性があり,今後HHT例の肝内血管短絡形成を心機能との関係でみてみる事もあっていいのではないかと思われた症例であった.