Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

一般口演
消化器:消化管3

(S412)

小児小腸型Crohn病における,便中カルプロテクチン濃度を用いた超音波像の検討

Images of ultrasonography correlate with fecal calprotectin concentration in ileal Crohn’s disease of children.

青松 友槻1, 松本 恭一2, 木村 恵美2, 井上 敬介1, 余田 篤1, 玉井 浩1

Tomoki AOMATSU1, Kyoichi MATSUMOTO2, Emi KIMURA2, Keisuke INOUE1, Atsushi YODEN1, Hiroshi TAMAI1

1大阪医科大学小児科, 2ミクリ免疫研究所研究部

1Pediatrics, Osaka Medical College, 2Research Division, Mikuri Immunological Lab.Co.

キーワード :

【はじめに】
カルプロテクチンは好中球細胞質に含まれるCa結合蛋白であり,好中球の活性化や細胞死に伴って細胞外へ放出される.便中濃度(便Cal)は腸管炎症と相関し,炎症性腸疾患(IBD)の有用な活動性指標としてコンセンサスが得られつつある(Dig Liver Dis 2009; 41: 56-66).Crohn病(CD)の活動性指標のgolden standardは内視鏡であるが,終末回腸以外の小腸病変の評価は困難である.小腸造影やCT,白血球シンチグラフィは有用であるが,腸管壁の形態評価や病変のモニタリングには適さない.様々なバイオマーカーも開発されているが,いずれもIBDに特異的でない,感度が低いなどの問題があり,今なお視覚的な腸管の観察は欠かせない.今回,便Calを炎症の指標として,小児小腸型CDにおけるUSの有用性を検討した.
【方法】
小腸型CD 患児7人(11.6±4.1歳)から19検体,健常児28人から28検体の便を採取し,便CalをELISA法で測定してUS所見と比較した.USでは,血流シグナル陽性かつ恒常的な2.5mm以上の壁肥厚を活動性病変とした.また,健常児の便Calの最大値をカットオフ値として,US,臨床活動性指標(PCDAI;Pediatric Crohn’s Disease Activity Index,<10:寛解,≧10:活動),CRP(正常:≦0.25mg/dl),ESR(正常:<12mm/hr)の炎症検出精度を比較した.
【結果】
便Cal(μg/g,単位省略)は,US正常群(n=6,中央値41.3,25%タイル値17.5,75%タイル値158.8)よりUS壁肥厚群(n=13,中央値2200.0,25%タイル値1125.0,75%タイル値2750.0)で有意に高値であった(p<0.01).US正常群と健常児群(n=28,中央値19.4,25%タイル値13.6,75%タイル値26.5)は差がなかった(p=0.21).US壁肥厚群において,壁厚と便Calのスピアマン順位相関係数は0.56(p<0.05)であり,層構造不明瞭群の便Cal(n=9,中央値2350.0,25%タイル値2200.0,75%タイル値3500.0)は,層構造明瞭群(n=4,中央値297.5,25%タイル値240.0,75%タイル値800.0)より有意に高値であった(p=0.01).健常児の便Calの最大値は75μg/gであった.これを便Calのカットオフ値とすると,炎症検出精度(感度,特異度,陽性予測値,陰性予測値の順に表示)は,US(86.7%,100%,100%,66.7%),PCDAI(66.7%,75.0%,90.9%,37.5%),CRP(40.0%,75.0%,85.7%,25.0%),ESR(42.9%,100%,100%,20.0%)であり,USが最も優れていた.
【考察】
便CalはUS壁肥厚群で高値であり,かつUS壁非肥厚群は健常児群と差がなかったので,USは小腸型CDの活動病変を鋭敏に捉えられると考えられる.その検出精度は臨床活動性指標や血液検査所見より優れていた.相関係数の検討から,壁厚はある程度炎症の強さを反映すると考えられるが,小児では年齢によって体格が大きく異なること,壁厚の計測値は蠕動により影響されることを考慮すると,これだけで炎症の程度を判定するのは難しい.USによるCDの活動性の評価は血流評価に基づく報告が多く,従来から知られているCDの特徴的な所見である層構造の不明瞭化に関する検討は少ない.Hataらは,組織所見との比較から層構造の不明瞭化は炎症が強いことを示唆すると報告しているが(Abdom Imaging 1994;19:395-399),客観的な指標を用いて検討した報告はない.今回,層構造不明瞭群の便Calは明瞭群より有意に高値であったことから,層構造の不明瞭化は炎症が強いことを示唆する所見と考えられた.
【結語】
USはCD小腸病変の検出および重症度の判定において有用である.壁厚が厚く,層構造の不明瞭化を伴う症例は炎症が強いと考えられ,注意深い経過観察および治療戦略の再検討が必要であると考えられた.