Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

一般口演
消化器:肝腫瘍 症例報告

(S407)

診断に苦慮した肝腫瘤性病変の1例

A case of hepatic tumor that a differential diagnosis is difficult.

川島 望1, 高橋 健一1, 竹島 賢治1, 乙部 克彦1, 今吉 由美1, 杉田 文芳1, 加藤 廣正1, 坂野 信也1, 熊田 卓2, 豊田 秀徳2

Nozomi KAWASHIMA1, Kenichi TAKAHASHI1, Kenji TAKESHIMA1, Katsuhiko OTOBE1, Yumi IMAYOSHI1, Fumiyoshi SUGITA1, Hiromasa KATO1, Shinya BANNO1, Takashi KUMADA2, Hidenori TOYODA2

1大垣市民病院医療技術部診療検査科, 2大垣市民病院消化器科

1Department of Clinical Research, Ogaki municipal hospital,Gifu,Japan, 2Department of Gastroenterology, Ogaki municipal hospital,Gifu,Japan

キーワード :

【はじめに】
癌の自然退縮はごく稀であり,その発生頻度は6万〜10万例に1例と言われている.肝細胞癌(以下HCC)の自然壊死も同様に稀な現象として知られている.HCCは他の悪性腫瘍同様に腫瘍内壊死を生じることがあるが,腫瘍内部に広範な自然壊死を来すことは稀である.今回我々は,HCCの自然消退と考えられる肝炎症性偽腫瘍の症例を経験したので報告する.
【症例】
74歳 男性既往歴 胃潰瘍 手術(37歳),S状結腸癌 手術(65歳),腰部脊柱管狭窄症 手術(70歳)C型慢性肝炎にて経過観察中,2003年にHCCにて肝S8aの切除を行った.2004年にペグインターフェロンを半年間投与しSVR (sustained virological response)となった.2007年1月,AFP 809.5 ng/mL,AFP-L3分画89.5%,ICG-R(15)20.6%と高値であり,精査・加療のため入院となった.B-mode超音波検査にて,S5に境界不明瞭で辺縁不整な40×30mmの内部不均一エコー域を認め,近傍の右門脈前・後区域枝に腫瘍塞栓を認めた.血管造影では,門脈造影にてS5への門脈に狭窄を認め,経動脈性門脈造影下 CTにてS5に血流欠損あり,門脈枝に欠損像を認め門脈内腫瘍と考えられた.しかし,総肝動脈からの肝動脈造影下CTではS5に明らかな腫瘍濃染像は認められなかった.ソナゾイドによる造影超音波(以下CEUS)では,動脈優位相にて腫瘍は周囲肝より強く濃染され腫瘍の範囲が認識できたが,被膜濃染などは認めず境界不明瞭な造影パターンを呈した.後血管相は境界のはっきりしない辺縁不整なくさび状の欠損像を呈した.CEUS上も右門脈前枝には腫瘍によると思われる塞栓物を認め,後枝にも塞栓物による狭窄を認めたため,門脈内を浸潤性に進展するHCCが疑われた.以上の結果より,本症例は門脈内浸潤型進行肝細胞癌と診断され,肝右葉切除術が施行された.病理組織では,硝子変性を伴う強い繊維化と血管壊死による出血,顕著な炎症細胞浸潤を呈する境界不明瞭な病変が見られ,辺縁部では周囲の再生結節の破壊と繊維化,偽胆管の増生が認められた.また,腫瘍塞栓を疑った門脈内には器質化した血栓を認めたが,腫瘍細胞は認められず,炎症性偽腫瘍の診断であった.手術後,腫瘍マーカーは著明に改善し,正常値を示した.
【まとめ】
今回,我々が経験した肝腫瘤性病変は,病理結果からは腫瘍細胞は認められなかった.炎症性偽腫瘍は,様々な原因から引き起こされる非特異的炎症所見と考えるべきであり,臨床所見・画像所見・腫瘍マーカーの所見から,本症例の原因は肝細胞癌の炎症過程における自然消退が最も強く示唆された.しかしながらあくまで症候群であり,暫定診断のため,炎症性偽腫瘍を疑った場合には個々の症例について詳しく検討していく必要があると考えられる.
【結語】
今回,我々はHCCの炎症過程における自然消退が原因と考えられ,診断に苦慮した炎症性偽腫瘍と考えられる症例を経験した.