Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

一般口演
消化器:消化管1

(S377)

Henoch-Schönlein紫斑病において好発する十二指腸病変の成因に関する検討

Duodenal anatomy mimicking SMA syndromeis a risk factor for duodenal involvement in Henoch-Schönlein purpura Duodenal anatomy mimicking SMA syndrome

原田 知典1, 金子 徹治1, 森 雅亮1, 横田 俊平1, 柴田 尚美2

Tomonori HARADA1, Tetsuji KANAKO1, Masaaki MORI1, Shumpei YOKOTA1, Naomi SHIBATA2

1横浜市立大学附属市民総合医療センター小児科, 2横浜市立大学附属市民総合医療センター臨床検査部

1Department of Pediatrics, Yokohama City University Medical Center, 2Clinical Laboratory, Yokohama City University Medical Center

キーワード :

【背景】
Henoch-Schönlein紫斑病(以下HSP)は,紫斑/腹痛/関節痛が3主徴として挙げられている.腹痛は,腹部の血管炎が原因とされており,好発部位は十二指腸第2部(下行部)とされているが,その理由は不明である.また,HSP患者では,靴下のゴム程度の弱い圧迫でも紫斑の増悪をきたすことから,血管炎が基礎にあり,さらに物理的外力が加わることで紫斑は増悪するといえる.一方,解剖学的に,十二指腸は,第3部(水平部)において,腹部大動脈(Abdominal Aorta:以下AA)と上腸管膜動脈(Superior Mesenteric Artery:以下SMA)に挟まれる.AAとSMAとの成す角(Aorto-Mesenteric Angle:以下AMA)が小さく,その距離(Aorto-Mesenteric Distance:以下AMD)が短ければ,十二指腸は2本の動脈に強く圧迫されることになる.このような解剖学的条件により,十二指腸が通過障害をきたし,嘔吐や腹痛などの腹部症状を呈する病態が,上腸管膜動脈症候群(以下SMA 症候群)である.SMA症候群とも考えられる腹部超音波所見を呈するHSP症例を経験したため,SMA症候群類似の解剖学的条件が,HSPにおける十二指腸病変を引き起こす原因の一つではないかと考えられた.
【対象と方法】
前向き患者対照研究で,2006年12月から2009年12月まで横浜市立大学附属市民総合医療センター小児科において症例集積を行った.患者群は腹痛を伴うHSP症例で,超音波検査上,十二指腸に異常所見を認める症例とした.対照群は,検尿で異常を指摘され,最終的に無症候性血尿か無症候性蛋白尿と診断された症例とした.全例に腹部超音波検査を施行し,AMA,AMDおよび肥満度(Obesity Index:以下OI)を計測した.超音波検査上の腸管異常所見は,3mm以上の壁肥厚,蠕動低下および腸液貯留を認めることとした.AMA,AMD,OIについて2群間で,Mann-Whitney検定を用いて比較検討した.また,十二指腸異常所見の有無で,SMA症候群の基準(AMA <25°,AMD<8mm)の陽性率に差があるかどうかを,Fisherの直接確立計算法を用いて検討した.
【結果】
 患者群は12例(男児8例,女児4例;3歳〜13歳)であった.年齢および性別調整した対照群は48例(男児32例,女児16例;3歳〜13歳)であった.AMA[22°(13-24) vs. 30°(15-55); p<0.001],AMD[4.1mm(2.7-5.9) vs. 5.8mm(1.8-10.6); p=0.003],OI[-9.3%(-19.5 to +12.7) vs. -0.2%(-28.6 to +55.3); p=0.026]と,いずれも患者群は対照群に比べて有意に小さかった.また,患者群では,超音波検査上のSMA症候群診断基準陽性率は100%(12/12)であったのに対して,対照群では20.8%(10/48)と,有意に患者群で陽性率が高かった(p<0.001).
【考察】
後腹膜脂肪組織やリンパ組織がクッションの役割を果たしているため,十二指腸はSMAとAAに挟まれて圧迫されることを免れている.急激に体重減少がおこると,リンパ組織や脂肪組織が減少し,SMA症候群が起こると言われている.また,痩せていること自体が,SMA症候群の危険因子とも考えられている.十二指腸に異常所見のあった患者群では,AMA,AMD,OIすべてにおいて対照群に比べて小さいことが示された.さらに,十二指腸病変の存在とSMA症候群の診断基準を満たすことの間に,強い関連性を認めることが示された.これらのことから,患者群は対照群に比べて,痩せており,かつ,SMAとAAとの成す角度も小さく,その距離も短く,SMA症候群の超音波診断基準の陽性率も有意に高く,その結果,十二指腸病変を呈するに至った可能性が示唆された.
【結論】
十二指腸がSMAとAAに圧迫されるというSMA症候群類似の解剖学的条件が,HSPにおいて好発する十二指腸病変を引き起こす原因の一つであると考えられた.