Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

一般口演
血管:静脈

(S371)

当院における妊娠初期に発症した深部静脈血栓症例の検討

Deep vein thrombolism in eary pregnancy

後藤 千鶴1, 生頼 侑果1, 谷口 京子1, 辻 裕美子1, 塩見 香織1, 河野 ふみえ1, 内藤 昭智1, 釣谷 充弘3, 保田 知男2, 平野 豊1

Chiduru GOTOH1, Yuuka OORAI1, Kyouko TANIGUCHI1, Yumiko TUJI1, Kaori SHIOMI1, Fumie KOUNO1, Syouchi NAITOU1, Mituhiro TURITANI3, Chikao YASUDA2, Yutaka HIRANO1

1近畿大学医学部付属病院中央臨床検査部, 2近畿大学医学部付属病院外科, 3近畿大学医学部付属病院産婦人科

1Clinical Laboratory, Kinki University school of Medicine, 2Surgery, Kinki University school of Medicine, 3Gynecology, Kinki University school of Medicine

キーワード :

【はじめに】
妊娠は,静脈血栓塞栓症(VTE)のリスク因子として知られている.妊娠初期には後期より形成された深部静脈血栓症(DVT)が飛散し肺血栓塞栓症(PTE)を合併しやすい傾向が報告されており,超音波検査によるDVTスクリーニングの意義は高いと考えられる.今回,妊娠初期にVTEを発症し超音波診断が治療方針の決定に有用であった症例を経験したので報告する.
《症例1》32歳,0妊0経産.《主訴》左下肢の疼痛と腫脹.《既往歴》特に認めず.《現病歴》悪阻のため自宅で安静にしていたところ妊娠9週に左下肢の発赤,疼痛と腫脹,Homans徴候を認め,血栓性静脈炎疑いにて紹介受診し入院となった.入院時超音波検査にて総腸骨静脈から大腿静脈にかけて血栓像を認めた.血液検査では,D-Dimerは20.7μg/dlと上昇を認め,プロテインSは30%と低下していた.入院後,ヘパリンにて治療を行っていたが,母体の安全を優先するとのことで人工妊娠中絶を行った.人工妊娠中絶後のプロテインSは71%と正常であった.
《症例2》34歳,不妊治療後の初回妊娠.《主訴》右下肢の疼痛と腫脹.《既往歴》未治療子宮筋腫.《現病歴》妊娠8週より右下肢の疼痛,腫脹,Homans徴候を認め近医を受診し,右下肢のDVTの診断で紹介受診し入院となった.入院時超音波検査にて右腸骨静脈より末梢にDVTを認めた.血液検査では,D-Dimerは3.08μg/dlと上昇,プロテインSは38%と低下していた.未分画へパリンで治療を行い下肢の症状は改善傾向であったが,入院11日目の早朝に胸痛が出現した.動脈血液ガスにてSATは94%,心エコー検査にて左室中隔の圧排像を認め,右室圧は41mmHgと上昇しPTEの診断でCCU転棟となった.その後,下肢の疼痛,Homans徴候消失し,下肢静脈エコーでも改善を認めた.ヘパリンカルシウムの皮下注射(15000単位/日)に変更し,退院し近医で通院治療継続である.
《症例3》36歳,1妊1経産.《主訴》左下肢の疼痛と熱感.《既往歴》虫垂炎《現病歴》妊娠8週より左下肢の疼痛を認め近医を受診し,DVT疑いにて紹介受診し入院となった.入院時超音波検査にて左外腸骨静脈に血流欠損部位を認め,腓腹静脈,ひらめ静脈に血栓を認めた.血液検査にてD-Dimerは4.25μg/dlと上昇,プロテインSは45%と低下していた.ヘパリンにて治療を行っていたが,人工妊娠中絶を行った.
【まとめ】
VTEの発症率は,妊娠中,分娩後を通し3相性のピークを認める1)と報告されている.VTEは,妊産婦死亡原因の1つで注意が必要である為,無侵襲な超音波検査を用いてVTEの診断を行うことは重要であると思われる.特に妊娠初期は腸骨静脈部での妊娠子宮による静脈圧排も弱く,DVTであるうちに超音波で検索することの意義が高いと考える.また腹部静脈の観察も容易である.今回,VTEの診断・経過観察に超音波検査が有用であった症例を経験したので報告する.