Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

一般口演
循環器:先天性心疾患

(S361)

胎児期からの経過観察中に心室中隔が瘤状に突出した乳児心筋症の一例

A case of infant cardiomyopathy with interventricular septum like an aneurysm

三原 千博1, 齋木 宏文2, 竹田津 未生2, 三村 優子1, 山本 哲也1, 数野 直美1, 岡原 千鶴1, 松村 誠3

Chihiro MIHARA1, Hirofumi SAIKI2, Mio TAKETATSU2, Yuuko MIMURA1, Tetsuya YAMAMOTO1, Naomi KAZUNO1, Chizuru OKAHARA1, Makoto MATSUMURA3

1埼玉医科大学国際医療センター中央検査部 生理機能検査室, 2埼玉医科大学国際医療センター小児心臓科, 3埼玉医科大学国際医療センター心臓内科

1Clinical Laboratory, Saitama Medical University International Medical Center, 2pediatric cardiologe, Saitama Medical University International Medical Center, 3Cardiology Department, Saitama Medical University International Medical Center

キーワード :

【はじめに】
乳幼児において心機能の低下をきたす疾患の一つに心筋緻密化障害がある.心筋緻密化障害は心室壁の肥厚と著明な網目状の肉柱形成と深い間隙を特徴とし,乳児期の発症ほど予後が悪いとされている.今回,胎児期からの経過観察中に心筋緻密化障害が進行し,心室中隔が瘤状に突出した乳児心筋症の一例を経験したので報告する.
【症例】
五ヶ月女児.
【胎児期の経過】
母体妊娠28週時に心拡大を指摘され,前医で経過観察されていた.分娩後の児の管理のため36週時で当院に紹介された.当院の胎児心臓超音波検査ではCTAR46%,右房右室優位の四腔拡大があり,左室,右室とも収縮が低下し中等度の僧帽弁逆流及び高度な三尖弁逆流を認めた.また,三尖弁では弁葉のドーミング,弁尖の開放制限が認められ弁狭窄も疑われた.肺動脈,動脈管の血流はともに順行性であったが血流シグナルは乏しかった.卵円孔は狭くなっていた.静脈系では拍動性の臍帯静脈血流が間歇的に観察され,下大静脈の拡張と逆流,静脈管の逆流が観察された.また,軽度の心嚢水を認めた.上記のように胎児心不全兆候を認めたがおおむね胎児の発育は良好であった.
【新生児期の経過】
36週5日 2524g,帝王切開で出生.Apgar score5点/7点.軽度のチアノーゼを認めたが呼吸障害を認めず,間もなく皮膚色は改善した.胸部X線写真ではCTR 74%と心拡大を認めたが明らかな肺うっ血像を認めなかった.超音波検査では出生前同様に右房,右室の拡大と高度の三尖弁閉鎖不全,中等度の僧帽弁閉鎖不全を認め,両心室とも心収縮は不良であった.前壁・中隔を除いた心筋は厚く網目状の肉柱形成があり,左室心筋緻密化障害が疑れた.入院早期には生理的肺高血圧のため卵円孔は右左短絡,動脈管は左右短絡であったが,呼吸確立に伴い次第に生理的肺高血圧は軽減し卵円孔も左右優位の両方向性短絡となった.同時に三尖弁閉鎖不全は高度から中等度程度に軽減し,胎児循環から新生児循環への転換は良好に推移した.左心室収縮不全に対してPDEⅢ阻害薬,生理的肺高血圧による三尖弁閉鎖不全遷延に対してSildenafilによる肺血管拡張療法を施行し,哺乳良好となったため日齢25に退院とした.なお退院時の胸部X線写真でのCTRは64%で,三尖弁閉鎖不全改善に伴い心拡大は軽減したが,左心室EFは38%と依然低下していた.
【乳児期の経過】
月齢1の超音波検査ではnon-compaction状に見える側壁および後下壁の収縮が不良であるが,中隔の壁運動は比較的保たれていた.哺乳および体重増加は良好で,左室拡張末期径は体格相当であり僧帽弁閉鎖不全,三尖弁閉鎖不全とも改善傾向であった.TR gradientは35mmHg程度であり,生理的肺高血圧の遷延を疑わせる所見であった.月齢3~4で心室中隔の壁運動は次第に低下し,月齢5~6で明らかな心室中隔の菲薄化と心尖部四腔像で右室側への瘤状突出を認めた.また,左室拡張末期径は35~40mmと急激な拡大傾向と駆出率の低下(EF30%前後)認めた.三尖弁閉鎖不全の程度は軽減したが,圧較差は徐々に上昇(35〜45mmHg)し,生理的肺高血圧よりも左房圧上昇に伴う肺うっ血の関与が疑われた.左室形態は拡張型心筋症の様相を呈し,僧帽弁閉鎖不全は中等度に増加した.臨床的にも哺乳不良と啼泣時の末梢循環不全徴候を認め,現在,心不全治療を強化し慎重に経過を観察している.
【結語】
胎児期に左室壁運動異常,僧帽弁閉鎖不全があり,出生直後に心エコーで左室心筋緻密化障害が疑われ,その後徐々に左心機能が低下,月齢4から心室中隔が瘤状に著明に突出し,特異な形態を呈した乳児心筋症の一例を経験したので報告する.