茅野 博行

Hiroyuki KAYANO

昭和大学医学部内科学講座循環器内科部門

Department of Medicine, Division of Cardiology, Showa University School of Medicine

キーワード :

【目的】
近年中隔 pacing が主流となりつつあるが，心室中隔 pacing が心尖部 pacingに比較し左室機能の低下を軽減できるかについて検討した．
【対象と方法】
左室駆出率（EF≧50%）が保たれ局所的な壁運動異常を認めない平均年齢74±12yrs. の完全房室block 45例（全例DDD 型 pacemaker 植え込み術後）を対象とした．左室短軸断面の心基部と心尖部levelにおけるLV rotation を2D speckle tracking imagingを用いて計測し，2断面のrotation の差からLV torsion を計算した．時計方向回転を正とした．そしてPulsed Doppler 法を用いてTrans-mitral flow と LV out flowを描出記録しLV Tei-index を算出した．心室中隔 pacing群（S-group, 20例; 76±10yrs.） と左室心尖部pacing群（A-group, 25例；72±12yrs.）の二群に分けて心基部と心尖部levelにおけるLV rotationとLV torsion，Tei-indexそして他の心エコ-指標に加え心電図QRS widthについて比較検討した．2D speckle tracking imaging を記録するときはframe rate 70 以上として記録精度を高めた．使用した超音波装置は東芝社製Artida．
【結果】
左室拡張末期径，収縮末期径そしてEFは二群間に差は認めなかった．心電図QRS width（ms） はS-group（102±23）はA-group（135±15）に比し有意に低値であった（p＜0.002）．LV rotation（degree） に関して 心基部levelはS-group（-0.27±1.8）とA-group（-0.45±2.2）の間に差は認めなかったが，心尖部level はS-group（3.43±1.8）はA-group（2.50±2.2）に比し有意に高く（p＜0.05），LV Torsion においてもS-group（4.32±1.7）はA-group（3.03±2.4）に比し有意に高かった（p＜0.05）．LV Tei-index（ratio）はS-group（0.51±1.6）はA-group（0.74±0.21）に比し有意に低かった（p＜0.05）．考案:中隔pacing は心尖部 pacing に比べより自然に近い刺激伝導をすると考えられており心室間の伝導遅延が小さい．よって心電図におけるQRS width も小さく，より生理的左室収縮反応が可能と判断できる．
【結語】
心室中隔 pacing はEFに差がなくてもLV rotation , LV torsion そしてLV total performance（Tei-index） において優れていた．