Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

一般口演
循環器:心筋ストレイン1 虚血・心筋症

(S347)

3次元スペックルトラッキング法による潜在性糖尿病性心筋症の診断的意義に関する検討

Utility of 3 dimensional speckle tracking echocardiography in patients with asymptomatic concealed diabetic cardiomyopathy

石津 智子1, 瀬尾 由広2, 亀田 有里2, 渥美 安紀子2, 山本 昌良2, 川村 龍2, 青沼 和隆2

Tomoko ISHIZU1, Yoshihiro SEO2, Yuri KAMEDA2, Akiko ATSUMI2, Masayoshi YAMAMOTO2, Ryo KAWAMURA2, Kazutaka AONUMA2

1筑波大学臨床検査医学, 2筑波大学循環器内科

1Department of Clinical Laboratory, University of Tsukuba, 2Cardiovascular Division, University of Tuskuba

キーワード :

【背景】
糖尿病は心不全における重要な予後不良因子である.心疾患や高血圧の合併なく発症する糖尿病症例の心機能障害は糖尿病性心筋症と考えられるが,無症状の潜在性糖尿病性心筋障害では診断法が確立されていない.糖尿病症例は一旦心不全を発症すると,薬物治療を行っても予後不良であり,早期の積極的治療介入を必要とする症例の層別化のための非侵襲的早期診断法の開発が重要である.3次元心エコースペックルトラッキング法は2次元心エコー法の限界であるthrough-plane現象には依存しない新たな心筋壁運動解析法である.本研究の目的は3次元スペックルトラッキング法を用いて血糖コントロール不良の糖尿病症例における左室収縮動態の特徴を明らかとし,心臓自律神経障害をはじめとする糖尿病合併症との関連を検討することである.
【方法】
対象は糖尿病教育目的で入院した連続症例48例,年齢53±11歳,(高血圧合併22例(DM-HT群),非高血圧26例(DM群)),および年齢を一致させた健常10例,年齢52±10歳である.心不全による入院歴,心房細動,虚血性心疾患,エコー画像不良例は除外した.糖尿病合併症としての網膜症,腎症のスクリーニングを全例に行い,心臓自律神経障害の指標として心電図RR間隔変動係数(CVRR)を測定した.6心拍加算にて左室の3次元エコー画像を取得し,3Dスペックルトラッキング法を用いて心内膜のトラッキングを行い,左室収縮期最大Longidutinal strain (LS), Circcumferentail strain (CS),area change rate (ACR),およびねじれを左室長径で補正したTorsion (degree/cm) を計測した.
【結果】
糖尿病症例のHbA1cは9.9±2.4%であり,92%がⅡ型糖尿病であった.左室駆出分画EFは健常群,DM群,DM-HT群に差を認めなかった(健常群67±6%,DM群67±7,DM+HT群67±9).ストレイン解析ではCS, ACRでは3群に差を認めなかったが,LSは健常群14.1±1.6%,DM群11.9±3.4,DM+HT群10.7±2.6で,DM+HT群はコントロール群に対して有意に低値であった(p=0.01).また,Torsionは健常群が1.1±0.7,DM群1.7±0.9,DM+HT群2.3±1.8であり,DM+HT群はコントロール群に対して有意に高値であった(p=0.03).LSは左室駆出分画とは有意な関連は認めなかったが,僧帽弁血流E/Aと正の相関(R=0.37, p=0.02),E波減速時間と負の相関(R=0.33, p=0.04),僧帽弁輪速度E’と正の相関(R=0.43, p=0.006),左室流入血流伝播速度と正の相関(R=0.47, p<0.004),肺静脈血流S/Dと負の相関(R=0.36, p=0.03)を示した.Torsionは左室収縮末期容積と負の相関(R=-0.36, p=0.03),EFと正の相関(R=0.37, p=0.02)を示した.LS,TorsionはHbA1c,インスリン抵抗性指標(HOMA-R)や糖尿病罹患期間とは有意な関連を認めなかった.一方,LSはCVRRとは有意な負の相関 (R=-0.35, p=0.04),尿中微量アルブミンと負の相関(R=-0.41, p=0.02)が認められ,増殖性糖尿病性網膜症例では非網膜症例に対し有意にLSが低値であった(p=0.001)(増殖性網膜症LS 7.5±1.8,非増殖性網膜症 10.5±3.1,非網膜症 12.7±2.8).また,Torsionは尿中Cタンパクと正の相関(R=0.26, p=0.001),血中レニン活性と正の相関(R=0.58, p=0.02)が認められた.
【結語】
3Dスペックルトラッキング法は左室駆出分画が保持された状態で,糖尿病症例における心筋の自律神経障害,微小血管障害や糖代謝異常と関連した左室長軸およびねじれ方向の収縮動態の早期異常を検出する新しい診断法となり得る.