Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

一般口演
循環器:肺動脈・右心機能

(S343)

無症候性肺動脈血栓症の診断のための新指標

A new index of asymptomatic patients with pulmonary artery thrombosis

北原 康行, 荒尾 正人, 説田 浩一

Yasuyuki KITAHARA, Masato ARAO, Koichi SETSUTA

がん・感染症センター 都立駒込病院循環器科

Department of cardiology, Tokyo Metropolitan Cancer and Infectious diseases Center Komagome Hospital

キーワード :

【背景および目的】
深部静脈血栓症を有する患者では,肺動脈血栓症を合併するか否かは,生命予後に影響する重要な問題である.肺動脈血栓症患者においては,血栓量が少量であると無症候性に経過することも多く発見が難しいことがある.しかしながら,血栓量が少量であっても肺動脈基幹部が閉塞し突如致死的な状態となることもしばしばあり,肺動脈血栓症を認めた場合は速やかに適切な治療を開始しなければならない.従来,肺動脈血栓症を診断するには造影検査や核医学検査が必要であるとされてきたが,それらの検査を呼吸器症状がない状態での深部静脈血栓症患者に対して緊急で行うべきかどうかは,臨床上での大きな問題である.今回,我々は呼吸器症状のない深部静脈血栓症患者において,無症候性ながら肺動脈血栓症を疑い速やかな対応を必要とする患者を早期に鑑別するための新たな指標を見つけるために,深部静脈血栓症患者の超音波検査所見とD-dimer検査値を後ろ向きに比較検討した.
【対象と方法】
当院で深部静脈血栓症と診断した75名の患者(平均年齢65.8歳,男性35名,女性40名)を以下の3群に分け比較検討した.A群:肺動脈血栓を有し呼吸器症状を有する群 (n=20)B群:肺動脈血栓を有し呼吸器症状を伴わない群 (n=26)C群:肺動脈血栓を否定し得た深部静脈血栓群 (n=29)測定項目は右室と左室拡張末期径比(RVDd/LVDd)と,右室と左室収縮末期径比(RVDs/LVDs),収縮期右室圧(RVSP),並びにD-dimer値を比較検討した.肺動脈血栓症の有無はMDCT検査や肺血流心筋シンチグラム検査,並びに臨床所見により診断した.解析はKruskal Wallis H-testで3群間の有意差を認めた際に,各群間をMann-Whitney U-test with Bonferroni correctionで有意差検定を行った.
【結果と考察】
①平均年齢はA群,B群,C群の3群間で有意差を認めなかった.②RVDd/LVDdは,A群・B群間と,A群・C群間で有意差P<0.01を認めたが,B群・C群間では有意差を認めなかったため,肺動脈血栓を有さない深部静脈血栓症患者と無症候性肺動脈血栓症患者の鑑別は出来ないが,有症候性肺動脈血栓症患者の診断には優れていた.③RVDs/LVDsはA群・B群間とA群・C群間,並びにB群・C群間でP<0.01の有意差を認め,右室負荷を反映し3群の鑑別に優れた指標であった.④RVSPはA群・B群間と,A群・C群間で有意差P<0.01を認めたが,B群・C群間では有意差を認めず,肺動脈血栓を有さない深部静脈血栓症患者と無症候性肺動脈血栓症患者の鑑別は出来ないが,有症候性肺動脈血栓症患者の診断には優れていた.⑤D-dimerは3群間で有意差P<0.05を認めたが,A群・B群間と,A群・C群間,並びにB群・C群間で有意差を認めなかった.従って,特異性は認められなかったD-dimerは凝固能亢進を反映しているかもしれないが,肺動脈血栓の有無の鑑別には適していないと考えられた.
【結論】
深部静脈血栓症患者における有症候性肺動脈血栓症患者の診断は,様々な検査項目でその診断は容易であるが,診断が困難とされてきた無症候性肺動脈血栓症患者の診断には,RVDs/LVDs測定が最も有用かつ簡便であり,同疾患の診断に対する新指標になり得ると考えられた.