Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

一般口演
循環器:肺動脈・右心機能

(S342)

重症心不全症例における拡張期肺動脈前方血流の意義

Diagnostic value of antegrade diastolic pulmonary artery flow with severe heart failure

飯野 貴子, 渡邊 博之, 伊藤 宏

Takako IINO, Hiroyuki WATANABE, Hiroshi ITO

秋田大学大学院医学系研究科循環器内科学

Department of Cardiovascular Medicine, Akita University Graduate School of Medicine

キーワード :

【背景・目的】
大血管転位やファロー四徴症術後の小児例において,右室拘束性障害を背景に,拡張末期の肺動脈弁開放運動とそれに引き続く肺動脈拡張期前方血流が出現することが報告されている.当院で2008年4月から2010年3月にかけて心臓超音波検査を行った成人5119例のうち,4例にこの所見が認められた.パルスドプラ法,カラーMモード法を用いて,拡張末期における肺動脈弁の開放と,心房収縮時相に一致した肺動脈前方血流が確認された.この所見は,成人例でほとんど報告がなく詳細な検討がなされていないため,その意義は不明である.そこで,拡張期肺動脈前方血流が認められた4症例について病態を評価し,拡張期肺動脈前方血流の意義について検討した.
【結果】
対象は当院で心臓超音波検査を行い,拡張期肺動脈前方血流を認めた成人例4例(年齢41±8歳,女性1例).基礎疾患はそれぞれ,症例1;右室機能障害を伴った拡張型心筋症,症例2;完全大血管転位術後の肺動脈弁狭窄症,症例3;大動脈弁置換術後の収縮性心膜炎,症例4;高度肺動脈弁逆流症であった.4例のうち,症例4を除く3例はNHYAⅢ〜Ⅳ度であり,保存的治療を行うも右心不全のコントロールに難渋し,浮腫や胸水貯留による入退院を繰り返していた.これらの症例において,心臓超音波検査では右室流入血流は拘束型を呈していた.心臓カテーテル検査による右室・肺動脈同時圧測定では,右室拡張期圧が著明に上昇し,心房収縮期に右室圧が肺動脈圧を凌駕する現象が4例全例で確認された.各々の症例の転帰であるが,症例1;カテコラミンから離脱できず,補助人工心臓を装着し心臓移植に向けて待機中,症例2;肺動脈弁置換術を施行するも術後肝不全のため死亡,症例3;右心不全を繰り返したため心膜剥離術を施行,症例4;後尖の逸脱による高度僧帽弁逆流症を発症し,僧帽弁置換術を要したため同時に肺動脈弁置換術を施行,と,症例1,2,3では保存的治療による心不全のコントロールができず,外科治療を要した.
【考察】
症例4では,高度肺動脈弁逆流症による右室容量負荷のため右室圧が拡張末期に向けて持続的に上昇したことにより,心房収縮期に肺動脈弁が開放し,肺動脈拡張期前方血流が出現したと考えた.それに対して,症例4を除く3例においては,肺動脈弁逆流はごく軽度しかみられなかった.これら3例においては,著明な右室コンプライアンスの低下など,高度の右室拡張不全により,右室が,右房と肺動脈とをつなぐ“導管”としてしか機能しなくなっていたと考えられた.これにより,心房収縮に一致して右室圧が肺動脈圧を凌駕し,肺動脈前方血流が出現したと思われた.なおかつ,この3症例はNHYAⅢ〜Ⅳ度と重症の心不全を呈しており,外科治療を要した.すなわち,右心不全症例における肺動脈拡張期前方血流の出現は,高度肺動脈弁逆流症を除外した場合には,右室拘束性障害を示唆する有用な所見であると考えられた.
【結語】
成人例においても,肺動脈拡張期前方血流の出現は,心不全の病態を把握するうえで有用であることが示唆された.高度肺動脈弁逆流のない症例では,原因として右室拘束性障害を考慮すべきと考えられた.