正木 充

Mitsuru MASAKI

兵庫医科大学臨床検査部

Assistant Professor, Hyogo College of Medicine

キーワード :

【目的】
高血圧患者において左室拡張機能障害，左室肥大がおこることが知られている．このメカニズムのひとつとして，高血圧では動脈スティフネスが増加し，それに伴い交感神経系の亢進や微小血管リモデリングの促進が生じ，後負荷が増大することが考えられている．つまり高血圧患者において動脈スティフネスを評価することにより，左室拡張機能障害や左室肥大の出現を早期に予測しえる可能性がある．しかしながら，動脈スティフネスの評価方法は，さまざまな非侵襲的検査があるにもかかわらず，血圧によって大きく影響されるという難点があった．近年，血圧の影響を受けにくいといわれているCardio-Ankle Vascular index （CAVI）が動脈スティフネスの指標として使用されている．本研究の目的は，Cardio-Ankle Vascular index （CAVI）を用いて動脈スティフネスと左室拡張能ならびに，その障害の原因となりうる微小血管障害や交感神経活性との関連性について検討する．
【対象】
経胸壁心エコー上，左室駆出率が保持されている（左室駆出率55%以上）連続する高血圧患者患者35名（平均年齢：68±10歳，男性21名）と健常者8名（平均年齢：59±18歳，男性5名）を対象とした．
【方法】
フクダ電子のVasera VS-1000を用いてCAVIを測定した．全例，経胸壁心エコー図検査を施行した．断層法にて左房径（LADI），Mモード法で左室拡張末期径（LVDd），収縮末期径（LVDs），心室中隔厚（IVST），左室後壁厚（LVPWT）を計測し，Teichholz式により左室駆出率を算出した．また，左室心筋重量（LV mass）をLV mass = 1.04［（LVDd+LVPWT+IVST）3 - LVDd3］× 0.8 ＋ 0.6で求め， 体表面積で除することにより左室心筋重量係数（LV mass index）を算出した. パルスドプラ法で左室流入血流速波形を記録し，拡張早期波（E）と心房収縮期波（A），E/A，拡張早期波の減速時間（DCT）を計測した．組織ドプラ法を用いて心尖部四腔断層像においてサンプルボリュームを僧帽弁輪中隔側に設定し，拡張早期僧帽弁輪移動速度（E’）を計測した. また血漿ノルアドレナリン濃度，血漿NT-proBNP濃度，尿中微量アルブミン濃度をCAVI測定と同日に測定した．
【結果】
CAVI値は健常者に比べて高血圧患者で有意に高値であった（9.3±1.9 vs. 7.9±0.9, p＜0.05）．またCAVI値は左心拡張能の指標として求めたLADI（r = 0.33, p ＜0.05），A （r = 0.40, p ＜0.05），血漿NT-proBNP濃度（r = 0.68, p ＜0.01）と正の相関を示し，E/A（r = -0.42, p＜0.01），E’（r= -0.39, p＜0.05）と負の相関を示した．左室肥大，微小血管障害，交感神経系活性の指標であるLVMI（r= 0.42, p＜0.05），血漿ノルアドレナリン濃度（r = 0.85, p ＜0.05），尿中微量アルブミン濃度（r = 0.95, p ＜0.001）とは，それぞれ正の相関を認めた．一方，血漿ノルアドレナリン濃度は，血漿NT-proBNP濃度（r = 0.95, p ＜0.01）と正の相関を，E/A（r = -0.85, p ＜0.05）と負の相関を示した．
【結論】
高血圧患者では，健常者に比べ動脈スティフネスの指標であるCAVI値が増加する．そのCAVI値の増加は，微小血管障害，交感神経系活性亢進，左室拡張機能障害，左室肥大との関連性が示唆された．CAVI値は，高血圧患者の左室拡張機能障害や左室肥大を示唆する簡便な一つの指標と考えられた．