Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

一般口演
循環器:症例2

(S336)

左心耳内血栓を合併した非細菌性血栓性心内膜炎の1例

A Case of Nonbacterial Thrombotic Endocarditis Associated with Cancer of Unknown Origin Complicated with Thrombus in the Left Auricular Appendage

則定 加津子, 田中 秀和, 金子 明弘, 辻 隆之, 山脇 康平, 漁 恵子, 辰巳 和宏, 松本 賢亮, 川合 宏哉, 平田 健一

Kazuko NORISADA, Hidekazu TANAKA, Akihiro KANEKO, Takayuki TSUJI, Kouhei YAMAWAKI, Keiko RYO, Kazuhiro TATSUMI, Kensuke MATSUMOTO, Hiroya KAWAI, Ken-ichi HIRATA

神戸大学大学院医学研究科 循環器内科学分野

Division of Cardiovascular Medicine, Department of Internal Medicine, Kobe University Graduate School of Medicine

キーワード :

症例は63歳の男性.慢性関節リウマチ,ネフローゼ症候群,下肢深部静脈血栓症および肺動脈血栓塞栓症の既往があり外来通院中であった.右側腹部痛を主訴に当院に入院となり,精査の結果,転移性大腸癌が疑われ原発巣の検索を進めていたが,第7病日に多発性脳梗塞を発症した.塞栓源検索のために行った経食道心エコー図検査にて,僧帽弁の前尖および後尖の左房側の接合面に沿って,それぞれ3×7mm,6×4mmの可動性のある異常構造物の付着を認めた(Figure 1A).僧帽弁逆流は軽度で,弁破壊を示唆する所見は認めなかった.さらに,入院経過中は洞調律であったにもかかわらず,左心耳内に12 × 8 mmの可動性に乏しい血栓を認めた(Figure 1B).これらの心エコー図所見から,感染性心内膜炎を第一に疑ったが,血液培養は陰性で臨床上感染を示唆する所見に乏しかったため,無菌性心内膜炎の可能性も考え,へパリンによる抗凝固療法を開始した.その後,全身状態の悪化のため,第13病日に永眠された.病理解剖では,横行結腸,S状結腸,直腸,膵頭部,腹膜,膀胱,心外膜など多臓器に腫瘤を認め,組織学的には非常に低分化な癌の所見であったが,原発巣は同定できなかった.病理組織上,僧帽弁に付着していた疣腫は主にフィブリンで構成されており,細菌や腫瘍細胞は認められなかった.これらの結果より,本症例は,原発不明癌に伴った非細菌性血栓性心内膜炎に左心耳血栓を合併したものと考えられた.非細菌性血栓性心内膜炎は,弁にフィブリンや血小板で構成される疣腫が付着した病態であり,悪性腫瘍などの過凝固状態を来たす疾患に合併しやすいとされている.弁破壊を来たすことは少ないが,高率に塞栓症を発症するという報告がある.臨床的には感染性心内膜炎との鑑別が治療方針の決定のため重要であるが,心エコー図上,感染性心内膜炎との鑑別が困難な例も多い.また左心耳内血栓を合併したという報告例は現在のところない.担癌患者に合併した非細菌性血栓性心内膜炎について若干の文献的考察を加えて報告する.