Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

一般口演
循環器:症例2

(S336)

外傷性大動脈弁逸脱の一例

Aortic valve prolapse following trauma

但木 壮一郎, 木村 義隆, 田丸 貴規, 山口 展寛, 尾上 紀子, 田中 光昭, 石塚 豪, 篠崎 毅

Soichiro TADAKI, Yoshitaka KIMURA, Takanori TAMARU, Nobuhiro YAMAGUCHI, Noriko ONOUE, Mitsuaki TANAKA, Takeshi ISHIZUKA, Tsuyoshi SHINOZAKI

国立病院機構仙台医療センター循環器科

Department of Cardiovasular Medicine, Sendai Medical Center, National Hospital Organization,Sendai

キーワード :

【症例】
23歳 男性
【既往歴】
患者は約1年7カ月前に交通外傷のため入院した.患者が運転するバイクが乗用車と接触して車体より投げ出され,右前胸部を街路灯に強打した.鈍的外傷性の肺挫傷とValsalva洞から上行大動脈前面の血腫を生じたが,保存的療法によって改善した.
【現病歴】
交通外傷前には指摘されていなかった心雑音を,定期検診にて初めて指摘され当科を受診した.心不全症状は認めなかった.心電図のV5のR波は,交通外傷による入院時には1.4mVであったが,当科受診時には3.4mVに増大していた.胸部レントゲンでは心拡大(心胸郭比60%)を認め,胸骨左縁第3肋間にLevineⅢ°の拡張期雑音を聴取した.経胸壁心臓超音波検査にて,重症大動脈弁逆流を認め,左室拡張末期径は72mmに拡大していた.左室駆出率は61%であった.傍胸骨長軸像で大動脈弁右冠尖の逸脱を認め,短軸像では右冠尖の弁腹に帯状の輝度上昇と先端に輝度上昇を認めた.短軸像での弁輪から各弁尖まで長さは右冠尖7.8mmに対して,左冠尖15.0mm,無冠尖12.8mmと明らかに右冠尖の萎縮を認めた.経食道心臓超音波検査では,大動脈弁右冠尖の弁尖が,左室側に逸脱し,僧帽弁前尖に沿って大量の大動脈弁逆流を生じていた.右冠尖の萎縮も明らかであった.心臓カテーテル検査にて,SellersⅢ°の大動脈弁逆流を認めた.左室壁運動は正常,左室駆出率68%であった.左室拡張期末期容積は396mlと著明に拡大し,肺動脈楔入圧は17mmHgと上昇していた.以上の検査より大動脈弁置換術の適応と判断した.術中所見では,大動脈弁の3尖とも変形し,特に右冠尖は萎縮し,石灰化を伴い,弁尖の接合不全を認めた.組織所見では右冠尖の弾性線維の異常増成と瘢痕様の線維化を認めた.
【まとめ】
鈍的胸部外傷が大動脈弁右冠尖を損傷し,慢性期の瘢痕線維化による右冠尖の萎縮が弁尖の逸脱を引き起こしたと考えられた.鈍的胸部外傷時に大動脈弁機能をスクリーニングすることは重要である.