Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

一般口演
循環器:症例1

(S333)

心筋integrated backscatter解析が診断に有用であった心ヘモクロマトーシスの1例

A case of cardiac hemochromatosis in which integreted backscatter analysis is useful in diagnosis

正岡 佳子1, 佐々木 洋子2, 土井 裕枝2, 沖野 清美2, 砂押 春香2, 舟木 麻美2, 沖本 智和1

Yoshiko MASAOKA1, Yoko SASAKI2, Hiroe DOI2, Kiyomi OKINO2, Haruka SUNAOSHI2, Asami FUNAKI2, Tomokazu OKIMOTO1

1土谷総合病院循環器内科, 2土谷総合病院心機能検査室

1Department of Cardiology, Tsuchiya General Hospital, 2Cardiovascular Laboratory, Tsuchiya General Hospital

キーワード :

【はじめに】
超音波Acoustic densitometry(AD)法による心筋integrated backscatter(IB)値は心筋の繊維化や鉄等の異常物質の沈着により上昇すると報告されている.我々は拡張型心筋症類似の重症心筋障害を来したヘモクロマトーシス症例の心筋IB計測を行い,血清ferritinの低下に伴い心筋IB値が低下し心機能も改善する経過を観察し得たので報告する.
【症例】
44才男性.既往歴:肝障害.家族歴:特記事項なし.主訴:呼吸困難.現病歴及び検査所見:2006年12月30日急性左心不全で当院へ救急搬送された.心電図は頻脈性心房細動,胸部XPでは肺野のうっ血とCTR63%と心拡大を認めカルペリチド,ドブトレックスの等の点滴を開始した.2007年1月4日の心エコー検査では4腔とも拡大し,びまん性の右室及び左室壁運動低下を認めた.LVEDV/ESV 185/136ml,EF27%,E-DcT 147ms.E/E’11.7.冠動脈造影では有意狭窄なし.皮膚の色素沈着を認め,血液検査にてFe227ug/dl,ferritin3467ng/dlと上昇し,CT,MRIでも肝臓,心臓に鉄の沈着の所見を認めヘモクロマトーシスによる心筋障害が疑われた.
【超音波Acoustic Densitometry法】
Philips社製Sonos7500を用いて心筋と左室内腔のintegrated backscatter(IB)計測を行い,心筋IB値から心腔内IB値を引いて補正心筋IB値を求めた.心室中隔と左室後壁の補正IB値は正常人(n=5)7.2±dB,10.1±3.5dB,拡張型心筋症(n=5)9.2±3.0dB,12.2±2.8dBに対し18.2dB,18.5dBと高値であり心筋への鉄の沈着が疑われた.
【その後の経過】
肝生検を行いHE染色では肝硬変の所見で,鉄染色にて肝細胞,グリソン鞘内の組織球に著明な鉄沈着を認めヘモクロマトーシスによる肝硬変と診断された.ARB,カルベジロール,利尿剤等による心不全の治療に加え瀉血とキレート剤による治療を開始したが,2007年4月心不全で再入院し血清ferritin4492ng/dlと上昇,心室中隔,左室後壁の心筋補正IB値も19.2dB,21.0dBと更に上昇した.アミオダロン等の投与を行っていたが心室頻拍を繰り返し,2007年6月CRTDを施行した.術前のQRSは124msと狭く2D speckle tracking法radial strainの解析では自己QRSの方がCRTよりdyssynchronyが少なくCRTはバックアップ時のみの使用とした.2007年10月からは洞調律に復帰したが,洞性徐脈が続き心房ペーシングを開始した.その後徐々に瀉血量を増量し鉄の過剰状態は次第に改善し,2010年12月には血清ferritinは713ng/dlに低下.心室中隔,左室後壁の心筋補正IB値も14.2dB,12.0dBと低下し,心エコー所見もLVEDV/ESV 102/49ml,EF52%,E-DcT243ms,E/E’6.0と著明に改善した.
【考案】
ヘモクロマトーシスにより拡張型心筋症類似の心筋障害を来し,瀉血とキレート剤に著明に心機能が改善した症例を経験した.通常の超音波画像では心筋の輝度の変化を捉えることは困難であったが,AD法による心筋補正IB値は治療前に高値を示し,ferritinの低下に伴い低下した.心筋IB値はヘモクロマトーシスによる心筋への鉄沈着の診断,治療効果判定に有用であると考えられ報告した.