Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

一般口演
循環器:症例1

(S332)

心室中隔枝-右室瘻:心臓移植後患者の心筋生検に伴ったまれな合併症の1例

Right Ventricular-Septal Branch Fistula: Possible Complication in Repeated Endomyocardial Biopsy of Heart Transplant Patient

橋本 修治1, 神崎 秀明2, 天木 誠2, 住田 善之1, 田中 教雄1, 中谷 武嗣3

Shuji HASHIMOTO1, Hideaki KANZAKI2, Makoto AMAKI2, Yoshiyuki SUMITA1, Norio TANAKA1, Takeshi NAKATANI3

1国立循環器病研究センター臨床検査部, 2国立循環器病研究センター心臓血管内科, 3国立循環器病研究センター移植部

1Depertment of clinical labotatory, National cerebral and cardiovascular center, 2Division of Cardiology, National cerebral and cardiovascular center, 3Department of Transplantation, National cerebral and cardiovascular center

キーワード :

【症例】
10代,女性.幼少期より拡張型心筋症に罹患し,左室補助人工心臓装着下に渡航し米国にて心臓移植を受けた.帰国後は当センターにて定期的な心臓移植後フォローアップを受けている.2009年の定期的な右室心筋生検にて得られた病理検体にて,冠動脈末梢枝と考えられる血管が確認されたため,冠動脈心室中隔枝の損傷の有無を確認する目的で経胸壁心エコー検査を行った.
【使用装置】
Artida(東芝メディカルシステムズ)およびVivid E9(GEヘルスケアジャパン)で探触子はそれぞれPST-25BTおよびM4Sセクタプローブを使用した.
【心エコー所見】
左室は明らかな壁運動異常は認めなかった.四腔断層では心臓移植後患者において一般的である心房-心房吻合による両心房の拡大を認めるのみで,両心室の形態に異常はなく,左室拡張末期径:40mm,左室収縮末期径:23mm,左室駆出分画:72%であった.しかし,カラードプラ像にて心室中隔壁より右室への小さな連続性血流シグナル(収縮期流速:1.1m/sec,拡張末期流速:0.9m/sec)を認めた.この異常血流は,心筋生検の採取部位から考慮すると左冠動脈中隔枝末梢を心筋生検にて損傷し,中隔枝から右室に交通が生じたことによる血流ではないかと思われた.そこで中隔枝基部の血流速度に注目して測定すると拡張期優位に流れており,その最大血流速度は70cm/sec以上と増加していた.また,カラードプラ法を用いて心腔内の血流シグナルについて段階的に断面を変えて観察すると,中隔枝の血流は右室腔に流入していることが確認できた.その他の心エコー所見として,三尖弁逆流は1/4(軽度)で右室‐右房間圧較差は16mmHgであった.心臓カテーテル検査によるQp/Qsは1.12と軽症であった.その後は経胸壁心エコーを含む経過観察を続けているが,特に変化を認めていない.
【考案】
心臓移植例は,術後早期から慢性期を通じて拒絶反応の診断に基づく免疫抑制剤の調整が大変重要である.近年では様々な非侵襲的な拒絶反応診断法が提唱されてはいるが,いまだゴールドスタンダードは心筋生検による病理組織診断である.施設毎に頻度は異なるものの,移植後 1 年未満では年に5から7 回,以後は約半年に 1 回以上の心筋生検を行う施設が多い.また,心筋生検は手技の簡便さや安全性から右室中隔側から採取する場合が多い.右室心筋生検に伴う合併症には,三尖弁の損傷でおこる三尖弁逆流や,心穿孔による心嚢液貯留などが挙げられるが,本例は中隔側の心筋採取の際に,その付近を走行していた中隔枝を巻き込んだ組織を採取して損傷したものと考えられる.
【まとめ】
右室心筋生検を頻回に必要とする心臓移植後患者に対し,カテーテル手技が招いた極めてまれな合併症である心室中隔枝-右室瘻を経験した.心筋生検は心臓移植後拒絶反応診断のみならず他の心疾患患者における原因疾患の診断や重症度評価にも広く実施されており,今回のような合併症が起こりうることも考えられる.心筋生検後には経胸壁心エコー検査を実施して注意深く観察を行う必要がある.