Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

一般口演
基礎:イメージング3

(S327)

複数周波数を用いた生体組織の音響特性計測

Measurement of acoustic characteristics of tissues by multi-frequency ultrasound

竹内 陽一郎1, 成澤 亮1, 川平 洋2, 山口 匡2

Yoichiro TAKEUCHI1, Ryo NARISAWA1, Hiroshi KAWAHIRA2, Tadashi YAMAGUCHI2

1千葉大学大学院工学研究科, 2千葉大学フロンティアメディカル工学研究開発センター

1Graduate School of Engineering, Chiba University, 2Research Center for Frontier Medical Engineering, Chiba University

キーワード :

【はじめに】
各種の病変において,超音波診断装置における受波信号に含まれる情報と生体組織の構造の関係が十分に解明されていないため,エコー信号から定量的に組織情報を得ることが困難となっている.本研究では,エコー信号の特性を決定する大きな要因である生体の音響特性と組織構造の関係を詳細に把握するために,複数の振動子を用いて多数の周波数で音響特性の分布を2次元で計測した.計測対象となる組織は主に肝臓である.
【方法】
臓器の変性に伴う音響的性質の変化について詳細に検討するために,計測対象としてラット肝臓を選択した.ラットは4週齢から飼育を開始し,通常飼育の正常肝ラット,高カロリー食の給餌により肥満した脂肪肝ラット,薬剤投与により肝炎・肝硬変を発症した硬変肝ラットの3種である.肝硬変ラットの肝臓は若干の脂肪沈着を伴う状態であり,ここでは脂肪性肝疾患として表記する.各々の計測試料を3 mm程度の厚みを有する状態にスライスし,試作の超音波顕微鏡システムを用いて25 MHzの振動子を用いて10,000点以上の箇所で計測を行い,その結果から減衰および音速を算出した.高周波の超音波を用いた計測は分解能に優れている反面,組織中を伝搬する際の減衰が大きいために受信されるエコー信号の強度が弱く,S/Nが低い傾向にある.そこで,より低周波である1 MHzおよび5 MHzの超音波を生体試料に照射し,S/Nの高い状態において25 MHzと同様の計測・解析を行った.
【結果と考察】
25 MHzの振動子を用いて高分解能での計測・解析を行った結果,正常肝の音響特性は音速,減衰ともに一般に知られる値と近くなり,計測箇所による差異も小さいことから組織の均質性が確認された.それに対し,脂肪肝では音速が遅く,減衰が大きい値となった.これも一般的に知られている性質と一致しており,脂肪組織の密度が正常な肝臓実質に比較して小さいことが特性変化の最も大きな要因であると考えられる.また,脂肪性肝炎においても正常肝に比較して音速が遅く減衰が大きい値となったが,両者ともに正常肝と脂肪肝の中間の値を取ることが特徴的であった.これは,線維組織と脂肪組織の混在による影響であると考えられる.1 MHzおよび5 MHzを用いての計測・解析結果においては,正常肝・脂肪肝・脂肪性肝炎における減衰と音速の関係性は25 MHzにおける結果と同様であることが確認された.しかし,1 MHzでは分解能の低下により微小な線維組織を個々の散乱体として判断できなくなり,脂肪性肝炎における減衰および音速の分散が大きくなる傾向にあった.これについては,現在構築中の120 MHzの振動子を用いる超音波顕微鏡システムにおいて詳細な計測を行い,組織構造との対応関係を確認することを計画している.