Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

一般口演
基礎:イメージング3

(S326)

カラードプラにおける音響流の可視化について

Visualization of acoustic streaming as the effect of color Doppler ultrasound

紺野 啓1, 藤井 康友1, 鯉渕 晴美1, 松永 宏明1, 荻原 友美菜2, 谷口 信行1, 石田 秀明3

Kei KONNO1, Yasutomo FUJII1, Harumi KOIBUCHI1, Hiroaki MATSUNAGA1, Yumina OGIHARA2, Nobuyuki TANIGUCHI1, Hideaki ISHIDA3

1自治医科大学医学部臨床検査医学, 2自治医科大学附属病院臨床検査部, 3秋田赤十字病院内科

1Department of Clinical Loboratory Medicine, Jichi Medical University School of Medicine, 2Clinical Laboratory, Jichi Medical University Hospital, 3Department of Internal Medicine, Red Cross Hospital Akita

キーワード :

【はじめに】
音響流は超音波の音響放射圧により媒質流体が移動する現象である.通常の超音波装置の使用条件下でも,粘性などの媒質の特性や超音波の音圧など音場の特性が好条件で揃えば,生じ得ると考えられるが,それを我々が実際に認識できるのは,音響流がBモード像として可視化される条件が加わった場合に限られる.このため,日常の検査において音響流を認識することはまれである.我々は最近,通常の超音波検査のカラードプラにおいて音響流の可視化と考えられる現象を複数経験したため,若干の考察を含め報告する.
【対象と方法】
自治医科大学臨床検査部における超音波検査施行例のうち,カラードプラにおいて音響流が観察された6例を対象とし,症例の背景,装置の使用条件,音響流のパターンについて検討した.病変内容の穿刺吸引が可能であった3例については,内溶液の性状についても検討を加えた.使用装置はGE社製LOGIQ 7(9MHzリニアプローブ,MI 0.9-1.3,カラードプラ周波数 5MHz,PRF 1.7kHz)およびアロカ社製prosoundα5(およびα10)(7.5MHz (10MHz)リニアプローブ,MI 1.5,カラードプラ周波数5MHz)である.
【結果】
1)症例は全例体表領域疾患例で,内訳は甲状腺のう胞性病変3例,耳下腺のう胞性病変1例,頸部膿瘍1例,下肢静脈瘤(venous aneurysm)1例であった.2)カラードプラ開始前のBモードにて,下肢静脈瘤以外の症例ではのう胞性病変内部に浮遊する多数の点状エコーを,下肢静脈瘤例では瘤内部にもやもやエコーを認めていた.3)カラードプラonとともに,全例で,ROI内部および上下の点状エコーが深部に向かって移動するのが観察され,音響流と考えられた.カラードプラのoffによりこの現象は速やかに消失した.4)穿刺吸引が可能であった3例ののう胞内溶液は淡血性・透明・漿液様が1例,血性・膿様が2例で,顕微鏡観察ではほとんどの固形成分が赤血球を主とする血球であった.5)下肢静脈瘤例では,カラードプラonと同時に,ROI内部およびその上下のもやもやエコーが深部に向かって移動するのが観察され,瘤内部に回転流が形成された.カラードプラのoffにより,それらは短時間で停止した.
【考察】
音響流が観察された症例は全て体表臓器疾患であり,リニアプローブによる観察のカラードプラ施行時に観察されたことは,本現象が生じる装置条件を考えるうえで非常に興味深い.今回の症例では,静脈瘤例に観察されたもやもやエコーを含め,カラードプラ以前のBモードで液体中に多数の点状エコーが観察されており,これらの存在下で,音圧の大きな,条件の特殊なカラードプラの送信が行われたことにより,たまたま音響流の可視化が可能になったものと考えられる.穿刺吸引されたのう胞内溶液中の固形成分のほとんどは赤血球を主とする血球であったが,これらには相当の変性が加わっていると考えられ,これにより通常無エコーの赤血球がエコー源となり,音響流を生じやすい音響学的性質が獲得されたものと考えられる.一方,今回の症例では静脈瘤内に観察されたもやもやエコーにも音響流が観察されているが,この場合のエコー源は正常赤血球であり,カラードプラon以前の血流はほぼ生理的な条件下にあったものと考えられる.こうした条件下で音響流が観察されたことは,通常のカラードプラ検査でも音響流が生じ,ごく低速の血流に無視できない修飾を加えたり,測定誤差を生じている可能性があることを意味する.今後は症例を蓄積するとともに,カラードプラ施行時に生じる音響流が血流計測に与える影響について検討していきたい.