英文誌(2004-)
一般口演
基礎:安全性とプローブ
(S318)
広帯域超音波におけるMI,TIの過小評価の検討
Under-estimation of MI and TI for wideband ultrasound
菊池 恒男
Tsuneo KIKUCHI
(独)産業技術総合研究所計測標準研究部門 音響振動科
National Metrology Institute of Japan(Nmij), National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
キーワード :
1.はじめに
医用における超音波応用では,効果と安全性の両立が重要な課題である.近年,医用超音波で使用する超音波パワーや音圧は増大傾向にあり,安全性確保の観点から,超音波音場の適切な制御が重要である.超音波の生体作用は,生体への熱的作用と,超音波に付随する音響キャビテーションに起因する機械的作用に分けられる.これらの評価指標としてMechanical Index (MI),Thermal Index (TI),が用いられており,前者は超音波の音圧の,後者は超音波パワーあるいはインテンシティの関数として,IEC 62359に定義されている[1].一方,MI,TIは単一周波数に対して定義されており,広帯域超音波の場合は,帯域を単一の周波数で近似してMI,TIを算出する.この周波数はacoustic working frequency(以後fawf)等と呼ばれており,IEC 62359等に定義されている.しかし,広帯域超音波を単一周波数で近似した場合のMI,TIの妥当性については十分議論されていない.そこで,広帯域超音波を単一の周波数で近似してMI,TIを計算した場合の妥当性について検討した.
2.計算方法及び結果
ここでは,音圧の周波数特性をGaussian関数で定義した.この場合,fawfは中心周波数と一致する.ピーク音圧から-3dBの音圧における周波数をf1, f2 (f2 > f1)とし,帯域幅をk=f2/f 1で定義する.k=3.17の場合について,音圧,超音波パワーを周波数の関数と仮定してMI,TIを算出した例をFig.1に示す.同図では,周波数,MI及びTIをfawfにおける値で規格化した.このように,MIはfawfより低域側で,TIは高域側でピーク値をとる.従来の,fawfを用いて算出した値と比較すると,従来法ではMIは7%,TIは9%程度過小評価されており,更に,過小評価の程度は,MI,TIとも,帯域幅と共に増大することがわかった.MI,TIの算出に必要な音圧,超音波パワー,インテンシティの測定の不確かさを概ね10%〜15%程度と見込むと,上記の過小評価の程度は,無視できない大きさである.
3.まとめ
広帯域超音波をfawfで近似してMI,TIを算出した場合,過小評価となる可能性があることを示した.この問題を解決する方法の一つは,MI,TI算出定義の変更である.例えば,帯域内のMI,TIの最大値で定義する方法が考えられる.次回のIEC規格のメンテナンス作業に向けて検討を継続したい.
【参考文献】
[1]IEC 62359 Ed.2