Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

一般口演
基礎:治療応用2

(S316)

診断用超音波とマイクロバブルによるドラッグデリバリーのin vitroでの最適化

Optimization of drug delivery by diagnostic ultrasound targeted microbubbles destruction in vitro

佐々木 東1, 中村 健介1, 村上 正紘1, Badula Kumara1, 大田 寛1, 山崎 真大1, 工藤 信樹2, 滝口 満喜1

Noboru SASAKI1, Kensuke NAKAMURA1, Masahiro MURAKAMI1, Bandula KUMARA1, Hiroshi OHTA1, Masahiro YAMASAKI1, Nobuki KUDO2, Mitsuyoshi TAKIGUCHI1

1北海道大学大学院獣医学研究科獣医内科学教室, 2北海道大学大学院情報科学研究科生命人間情報科学専攻

1Laboratory of Veterinary Internal Medicine, Graduate School of Veterinary Medicine, Hokkaido University, 2Biological Instrumentation and Measurements, Graduate School of Information Science and Technology, Hokkaido University

キーワード :

【目的】
Ultrasound Targeted Microbubble Destruction(UTMD)は遺伝子導入および薬剤デリバリー法として期待されている.診断用超音波によるUTMDもin vitroならびにin vivoで研究されている.UTMDによく用いられる治療用超音波と違い,診断用超音波は波数が少なく出力が低いため,診断用超音波によるUTMDの条件は治療用超音波の場合と異なる可能性がある.したがって診断用超音波によるUTMDのデリバリー効率を上げるためには基礎的な検討が欠かせないが,それらの検討は不足している.そこで,診断用超音波でのUTMDによるドラッグデリバリー効率を向上させる基礎的知見を得るため,in vitroでの薬剤の至適濃度,最も効率のよいマイクロバブル濃度と照射時間の組み合わせを検討した.
【方法】
96 well plateに単層培養した犬甲状腺癌由来株細胞に,抗癌剤のシスプラチンおよびマイクロバブル(以下,バブル)のソナゾイド存在下で,診断用超音波を照射した.デリバリー効率をシスプラチンの殺細胞効果で評価するために,照射24時間後にトリパンブルー染色を行って細胞生存率を求めた.まず,シスプラチン濃度の影響を検討するため,バブル濃度を2.4×105個/mlに固定し,4段階のシスプラチン濃度(0.5, 1, 5, 10μg/ml)で細胞生存率を比較した.次に,シスプラチン濃度を1μg/m1に固定,バブル濃度を2.4×105, 1.2×106, 6×106個/mlの3段階に設定し,超音波を1, 5, 15, 30, 60秒間それぞれ照射して細胞生存率を検討した.
【結果と考察】
シスプラチン濃度については,シスプラチン‐バブル‐超音波の併用効果が0.5μg/mlでは認められなかったが,1μg/ml以上では認められた.5μg/m1以上では,対照群であるシスプラチン単独,シスプラチン‐超音波併用でも殺細胞効果が強くなり,シスプラチン‐バブル‐超音波の併用効果は小さくなった.シスプラチンが細胞膜透過性物質であるため,UTMDによるシスプラチンの殺細胞作用の増強は濃度依存性ではなく,本実験系での至適濃度は1μg/mlであると考えられた.
バブル濃度については,2.4×105個/mlでは照射時間に依存して細胞生存率が低くなる傾向にあった.1.2×106個/mlでは照射時間に依存して細胞生存率が有意に低下したが,照射時間60秒では対照群であるシスプラチン非存在下のバブル‐超音波併用でも細胞生存率が低下した.6×106個/mlでは,照射時間5秒から細胞生存率が急速に低下し,その後の変化は小さかった.加えて,対照群であるシスプラチン非存在下のバブル‐超音波併用でも細胞生存率が低かった.超音波画像の観察から,2.4×105個/ml ではバブルのエコー輝度が一瞬で低下し,超音波照射によりバブルは一気に崩壊した.一方,1.2×106および6×106個/mlではエコー輝度がプローブ近傍から低下したが,wellの底ではバブル濃度に応じた一定の輝度を示し,破壊されなかったバブルの存在が示された.従来,UTMDの効率はバブル濃度に依存するとされてきた.しかし,今回の実験結果から,高濃度のバブルの存在は超音波の減衰をもたらし,バブル濃度と照射時間の組み合わせによってはバブルが完全には崩壊せずに残存することが明らかとなった.以上より,本実験系ではバブル濃度2.4×105個/ml,照射時間60秒の組み合わせが最適と考えられた.
【まとめ】
今回のin vitro実験系では,シスプラチン濃度を1 μg/ml,バブル濃度を2.4×105個/ml,照射時間を60秒にすると,デリバリー効率が最も高くなった.UTMDによるデリバリーを最も効率よく行うためには薬剤およびバブル濃度,照射時間を適切に設定することが重要である.